スマホに使われる鉱物がコンゴの武装勢力の資金になる、解決できるかどうかは「消費者次第」

コンゴ民主共和国東部で鉱物を採掘する現場(写真提供:認定NGO法人テラ・ルネッサンス)コンゴ民主共和国東部で鉱物を採掘する現場(写真提供:認定NGO法人テラ・ルネッサンス)

「電子機器メーカーに消費者がプレッシャーをかければ、鉱物が(コンゴ民主共和国)の武装勢力の資金になることをおさえられる」。NPO法人リタ・コンゴの華井和代共同代表は8月5日、オンラインで開催されたセミナー「第86回テラ・スタイル東京」でこう語った。コンゴ民主共和国の東部でとれる3TG(スズ、タングステン、タンタル、金)が武装勢力の資金にならないよう、国際社会は紛争鉱物の取引の監視を強めてきた。だが3TGを扱う米国企業の56%がいまだに出どころを明らかにしていない。

■世界最多600万人の死者

コンゴ民主共和国の東部は世界最悪の紛争地帯といわれる。1996年に始まったコンゴ紛争でこれまでに死亡したのは600万人以上。これは第2次世界大戦以降、世界最多だ。2003年の停戦調停後も紛争は続き、いまは大小130の武装勢力が略奪や性暴力を繰り返している。

武装勢力の資金源となっているのが、スマートフォンやパソコンなどに不可欠な鉱物だ。3TGのうちタングステンはバイブレーターに、タンタルはコンデンサーに使われる。武装組織は3TGの鉱山を支配するか、みかじめ料をとり、武器の購入や民兵の給料にあてる。

■ウェブサイトで企業名の公表も

コンゴ民主共和国東部の鉱山でとれる3TGの鉱石は、精錬・精製所(精錬所)で純金属にする。その後、部品に加工され、サプライチェーンの最終地点である電子機器メーカー(川下企業)でスマホやパソコンといった製品となる。国際社会は鉱山と精錬所を監視し、川下企業に説明責任を負わせることで3TGが武装勢力に利用されるのを防ぐシステムを作り上げた。

アフリカ大湖地域国際会議と西欧諸国は2009年、3TGの鉱山に対し、その地域のNGOが鉱山に武装勢力がかかわっていないかをチェックする「地域認証メカニズム」を導入した。武装勢力との接触が6カ月間なかった場合、その鉱山の鉱石に、紛争にかかわっていない(コンフリクトフリー)という承認の電子タグがつけられる。

3TGの精錬所を監視するのは、アップルやソニーなど世界の大手電子機器メーカーが加盟する電子・電気業界団体(EICC)だ。EICCは、精錬業者が仕入れる鉱石がコンフリクトフリーの承認を受けているかをチェック。承認のある鉱石だけを扱う精錬所を「コンフリクトフリー精錬所」として認定する。

川下企業に対しては法律で説明責任を課す。米国議会は2010年、ドッド・フランク法1502条を採択。また経済協力開発機構(OECD)は同じ年、デュー・デリジェンス・ガイダンスを発表した。ルール化されたことで川下企業は、使用する3TGの精錬所をウェブサイトで公表したり、米国証券取引委員会に報告したりしなければならなくなった。

川下企業は説明責任を果たすため、仕入先のメーカー(サプライヤー)に部品の調査を依頼する。依頼されたサプライヤーはそのまた前のサプライヤーに働きかける。こうした連鎖がサプライチェーンを遡っていき、3TGの精錬所を突き止めるのだ。

川下企業が3TGの精錬所を報告しているかどうかをチェックするのは人権NGOの仕事だ。グローバル・ウィットネスなどの国際NGOは3TGを取り扱う川下企業のウェブサイトをチェックし、その結果を公表する。精錬所を明記していない企業は社名を公開され、企業や商品の価値が下がる仕組みだ。

こうしたシステムが功を奏し、コンゴ民主共和国東部にあるタンタルとタングステンの鉱山の約8割が現在、コンフリクトフリーの認証を受けるようになった。

■不買運動でアップルは変わった

だがこのシステムにも欠陥がある。それは、ドッド・フランク法やデュー・デリジェンス・ガイダンスは川下企業への罰則をもたないことだ。

NGOが出どころ不明の3TGを扱う企業を列挙しても、消費者の購買行動が変わらなければ企業は本気になって取り組まない。2018年の調査では、3TGを扱う56%の米国電子機器メーカーがいまだに精錬所を明確にしていないことがわかった。

この現状を憂慮する華井さんは「紛争鉱物を取り締まるためには消費者の私たちがコンゴ民主共和国に関心をもち、声を上げなければならない」と訴える。

世論が電子機器メーカーを動かした例で有名なのが、2010年のアップルに対する不買運動だ。NGOイナフ・プロジェクトは2010年、大手電子機器メーカーがコンゴ民主共和国の紛争鉱物を使っているというキャンペーンを大々的に実施。これに同調した多くの市民がアップルストアの前で抗議をした。

アップルはその後、サプライヤーに説明責任を強く求めるのと同時に、精錬業者の調査に乗り出した。アップルは現在、すべての3TGの出どころがコンフリクトフリーの精錬所だと報告する。イナフ・プロジェクトが2017年に発表した紛争鉱物不使用ランキングでも1位を獲得した。

武装勢力の襲撃にあったコンゴ民主共和国東部の村(写真提供:認定NGO法人テラ・ルネッサンス)

武装勢力の襲撃にあったコンゴ民主共和国東部の村(写真提供:認定NGO法人テラ・ルネッサンス)

責任あるサプライチェーンについて解説した図。電子情報技術産業協会(JIETA)責任ある鉱物調達検討会の資料から引用

責任あるサプライチェーンについて解説した図。電子情報技術産業協会(JIETA)責任ある鉱物調達検討会の資料から引用