【パーム油発電の幻想①】CO2の排出量はガス火力以上、「カーボンニュートラルではない」とFoE Japan

プランテーションのために伐採されたマレーシア・サラワク州の山(写真提供: FoE Japan)プランテーションのために伐採されたマレーシア・サラワク州の山(写真提供: FoE Japan)

環境NGO「FoE Japan」の満田夏花(かんな)事務局長は9月2日、同団体主催のセミナーで「パーム油発電がカーボンニュートラル(二酸化炭素=CO2の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロの状態)というのは幻想だ」と語った。パーム油を精製、輸送するプロセスで大量の温室効果ガスを出すこと、パーム油を作るために森林を破壊することが理由だ。

■搾油でメタンも発生!

木材や植物性油、家畜のふんなどの有機物を燃料とするバイオマス発電は、一般的にカーボンニュートラルといわれる。植物が吸収するCO2と、その植物を燃やすときに発生するCO2が相殺されると考えるためだ。

バイオマス発電の燃料としてポピュラーなのが、アブラヤシの実からとれるパーム油だ。アブラヤシは他の油性植物と比べて収穫効率が高い。単位面積あたりにとれる油の量は、アブラナの5倍、大豆の8倍。量を必要とするバイオマス発電にとってパーム油は最適な燃料といえる。

ところがFoE Japanの満田さんは、パーム油発電はカーボンニュートラルではないと否定する。理由はパーム油を生産するプロセスで大量の温室効果ガスを排出するからだ。

パーム油は、実から油分を抽出する搾油、精製(脱色、脱臭)を経て発電所の燃料となる。大規模な工場が欠かせず、大量のエネルギーを消費。多くのCO2を出す。

特に問題なのが、搾油プロセスで発生するメタンだ。アブラヤシの実を洗浄、殺菌する際に大量の廃液が出る。廃液は近くの溜め池に捨てられ、それが空気に触れることでメタンが発生する。メタンの温室効果はCO2の25倍といわれ、地球温暖化に大きな影響を及ぼす。だがパーム油の2大生産地であるインドネシアとマレーシアにはメタンを処理できる搾油工場は少ないという。

パーム油はまた、運搬する際も大量のCO2を出す。インドネシアから日本まで約5400キロメートル。数千トンのパーム油をタンカーで運ぶときに大量の化石燃料を使う。

経済産業省バイオマスワーキンググループの調査によると、パーム油の搾油、精製、輸送のプロセスで発生する温室効果ガスの量は1メガジュールあたり約130グラム。これはガス火力発電(ガスタービンと蒸気タービンの2つを回すコンバインドサイクル)で発生する温室効果ガスの量とほぼ同じだ。もし搾油プロセスでメタンを処理しなかった場合は石油火力発電に匹敵する。

■インドネシアは世界3位の排出国

パーム油発電がカーボンニュートラルでないもうひとつの理由は、パーム油を生産する目的で熱帯林を焼き払うからだ。熱帯林を燃やせば、貯蔵されていた炭素がCO2となって大気中に放たれる。この放出された炭素は、その後いくらアブラヤシを栽培しても戻ってこない。

さらに深刻なのが泥炭地を開発した場合だ。泥炭地とは、枯れた木や植物が水にたまり、分解されずに残っている湿地帯のようなところ。深い場所で20メートルも堆積しているという。世界自然保護基金(WWF)の調査によると、世界の陸地面積の3%に満たない泥炭地に、世界の土壌に含まれる炭素の約3分の1が蓄積されている。まさに炭素の貯蔵庫だ。

企業はアブラヤシのプランテーションをつくるため、泥炭地の近くに水路を掘る。これによって泥炭地の水を抜き、分解されずに残った植物を乾燥させる。乾燥した泥炭地の森林に火を入れて焼き払う。そのときの温室効果ガスの発生量は土地開発をしない場合のパーム油発電の139倍だ。

実はインドネシアはCO2を多く出す国のひとつ。世界エネルギー機関によると、2018年のインドネシアのCO2の排出量は世界10位。しかし2006年の国際湿地保全機構の発表によると、家庭や産業から出るCO2以外に、火災から発生するものも含めれば、インドネシアは中国、米国に続く世界3位のCO2排出国になるという。

「2019年に起きた山火事は7万1634件。ほとんどが故意に火入れをした結果だ。パーム油発電が続く限り、森林破壊は終わらない」と、インドネシアの環境NGOワルヒのワヒュー・ペルナダさんは嘆く。

■いまや大規模グローバル発電に

バイオマス発電はもともと、間伐材や未利用材、家畜のふんなどの有機廃棄物を再利用するために発案された。大きな農場や人工林の近くにバイオマス発電所があるのはこのためだ。

しかし廃材やふんは量が限られる。このため大量の電気を安定的につくることはできない。そこで注目されたのがパーム油だ。日本の外で生産し、国内に輸入することで燃料の安定供給が可能となった。

パーム油、輸入木材、その他のバイオマス液体燃料による日本の発電能力は、2015年の295万キロワットから2018年は775万キロワットとわずか3年で約2.6倍に増えた。今も多くのパーム油発電所が日本全土で建設中だ。

地域の有機廃棄物を電気にリサイクルする取り組み(サーマルリサイクル)から、グローバルチェーンを利用した大規模発電へと変化したバイオマス発電。このトレンドが世界規模で森林を壊し、大量の温室効果ガスを放出する。

1985〜2016年の31年間でインドネシアのパーム油の輸出量は36倍に急増した。それと反比例して、世界で6番目に大きい島であるインドネシアのスマトラ島では、熱帯林の面積が2580万ヘクタールから1040万ヘクタールに激減したという。

「燃料を輸入に頼る大規模なパーム油発電は森林を破壊し、地球温暖化を助長する。パーム油発電を再生可能エネルギーとして扱うべきではない」と満田さんは主張する。(つづく

炭素が多く貯蔵されているインドネシア・西カリマンタン州の泥炭地(写真提供:FoE Japan)

炭素が多く貯蔵されているインドネシア・西カリマンタン州の泥炭地(写真提供:FoE Japan)