南スーダンの貧困を救うのはハチミツ!? 日本への輸入販売を手がけるオフィス五タラントが手ごたえ 

水野さんが2019年5月から6月に南スーダン・ジュバの養蜂場を訪れたときに出会った2人の養蜂家。左は、ウガンダの大学院で修士号をとった女性、右は、南スーダン政府の元官僚の男性。養蜂用の防護服を着ないで作業することも普通だ水野さんが2019年5月から6月に南スーダン・ジュバの養蜂場を訪れたときに出会った2人の養蜂家。左は、ウガンダの大学院で修士号をとった女性。右は、南スーダン政府の元官僚の男性。養蜂用の防護服を着ないで作業することも普通だ

「アフリカの最貧国はハチミツを売れ!」。こう語るのは、南スーダンでとれたハチミツを、2016年から日本に唯一輸入する会社オフィス五タラント(本社:横浜市中区)の水野行生代表だ。「ハチミツのビジネスは南スーダンの人にとって、いますぐ始められるもの。貧困や銃におびえる生活から抜け出すことにもつながる」と話す。

■3カ月で始められる!

ハチミツビジネスが、南スーダンの人たちの暮らしを豊かにする理由は3つある。

1つめは、ハチミツは高い値段で売れることから、外貨(米ドル)を獲得しやすいこと。水野さんによれば、南スーダンの養蜂家の1年(2020年)の稼ぎは、ハチミツ600キログラムを売って約2100ドル(約21万7200円)。1人当たりの国民総所得(GNI)が1090ドル(約11万2700円)のこの国では、平均年収のおよそ2倍になる。

ハチミツの値段は、新型コロナウイルスの影響も受けなかった。「コロナ禍で南スーダンのガソリンの値段は6月には1リットル1ドル(約100円)以下に下がった。ペットボトルの水1本(500ミリリットル)よりも安い値段。だがハチミツの値段は高いまま」と水野さんは口にする。

2つめは、即金性があることだ。「コーヒー農園をしようとコーヒーの木の種を植えても、実がなって売るまでに3年はかかる。ところがハチミツなら、巣箱に使う木材さえ準備すれば最短3カ月で成り立つ」(水野さん)

立ち上げ費用が安いことに加えて、収入も高く安定する、というのがハチミツビジネスの特徴。アフリカならどこでもハチミツはとれ、保存できる。「野生の巣の一部を切り取ってハチミツを取り出すことも普通にある。ハチミツは最低3年くらいもつ。すぐに売れなくても保管できる」と水野さんは説明する。

■黒糖以上の濃厚さ

3つめのメリットは、他の国にはあまりない珍しいハチミツが南スーダンにはあることだ。

オフィス五タラントが日本で売る商品のひとつ「ヤンビオはちみつ」は、南スーダンの首都ジュバから約340キロメートル離れた西エクアトリア州ヤンビオでとれる。マンゴーやパイナップルがたくさんある地域なので、アフリカミツバチが集める花の蜜は、フルーツのさわやかさと濃厚な甘さが際立つという。

ヤンビオはちみつは2020年8月に発売してから3カ月で売り上げトップになった人気の商品。「おすすめの食べ方は、コーヒーや紅茶に入れたり、ヨーグルトに添えたり。トーストの上にのせてもおいしい」(水野さん)

ヤンビオにはいま、日本人が足を踏み入れることができない。コンゴ民主共和国と中央アフリカ共和国の国境に位置するヤンビオを、ウガンダから派生した反政府武装勢力「神の抵抗軍」(LRA)が脅かすためだ。これに対抗する南スーダン政府軍は300人以上の子どもを兵士にして戦う。

水野さんは「徴兵から解放された子どもたち(元子ども兵)が成長して、ヤンビオの養蜂業を担ってくれたら嬉しい」と語る。

「南スーダンの蜂蜜」はジュバ近郊でとれたもの。同社が扱う全6種のハチミツ(マラウイ、ケニア、ブルンジ、南スーダンが産地)のなかで、最も濃厚だという。「まるで濃い黒糖」と水野さんはたとえる。唯一無二の味を生み出すのは、アフリカミツバチが採集するサバンナアカシア(アフリカの南部地域が原産の花)の蜜だ。

「アフリカ好きやハチミツ愛好家がよく購入する。香ばしい風味がくせになるのか、リピーターも多い」(水野さん)

ヤンビオはちみつと南スーダンの蜂蜜は、南スーダン人が経営する会社HAGANAが輸入を仲介する。値段はともに120グラムで1100円(税込み)と手ごろだ。

■養蜂家は高学歴

ジュバの養蜂場を水野さんが初めて訪れたのは2019年。その養蜂場がいまある場所はかつて、南スーダンの政府軍と反政府軍が2016年7月に戦い、270人以上が死んだとされる激戦地だった。

平和が訪れた地で養蜂を営むのは、難民として南スーダンからウガンダへ渡ったあと大学院で教育学の修士を取得した女性や、南スーダン政府の元職員たちだ。

水野さんは言う。

「彼らがジュバで養蜂を始めた理由は、多額のお金がすぐに手に入るから。高学歴の人でも、内戦が勃発するようなところでは、キャリアに見合った仕事は見つからない。彼らは私に、『南スーダンが平和が続く状態になれば、スキルアップのために転職したい』と本音をこぼしてくれた」

水野さんによると、南スーダンでは近年、国家収入の98%を占める石油産業だけでなく、他の産業にも挑戦して外貨を得ようとの動きがあるという。ハチミツビジネスは南スーダン政府からも注目されている、と水野さんは意気込む。

オフィス五タラントが南スーダン産のハチミツを日本に輸入し始めたきっかけは、2015年10月に開かれた「よこはま国際フェスタ」。当時の駐南スーダン日本大使が水野さんのもとへやって来て、「南スーダンのハチミツにも興味はない?」と声をかけたという。

サバンナアカシアの木にできたアフリカミツバチの巣。巣からとれる蜜蝋も「南スーダンのみつろう」という商品名で販売(50グラム、税込み880円)。アルガンオイルと混ぜてリップの保湿用に使うのが人気

サバンナアカシアの木にできたアフリカミツバチの巣。巣からとれる蜜蝋も「南スーダンのみつろう」という商品名で販売(50グラム、税込み880円)。アルガンオイルと混ぜてリップの保湿用に使うのが人気