新型コロナの予防ワクチンは誰のものか? 「医療分野の知的財産権を守ること」が途上国を苦しめる

看護師が子どもにワクチンを打つようす(記事とは関係ありません)(Pexels)。途上国でのワクチン接種は、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成」につながる。UHCとは、すべての人が、病気の予防や治療などに必要なサービスを、支払い可能な費用で受けられること。UHCに「ワクチンへのアクセスを含む」という文言を入れたのは、ルセフ元大統領が率いたブラジル。だがブラジルはいま、新型コロナの予防ワクチンを途上国に届けることに反対の立場だ看護師が子どもにワクチンを打つようす(記事とは関係ありません)(Pexels)。途上国でのワクチン接種は、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成」につながる。UHCとは、すべての人が、病気の予防や治療などに必要なサービスを、支払い可能な費用で受けられること。UHCに「ワクチンへのアクセスを含む」という文言を入れたのは、ルセフ元大統領が率いたブラジル。だがブラジルはいま、新型コロナの予防ワクチンを途上国に届けることに反対の立場だ

エイズのときとは真逆のブラジル

TRIPs協定の一時停止に 反対するのはわずか11カ国・地域 。米国、欧州連合(EU)、日本、オーストラリア、スイス、ノルウェー、カナダ、イスラエルといった先進国に、ブラジル、エクアドル、エルサルバドルなど一部の中南米諸国が加わる。

稲場氏が注目するのはブラジルの動向だ。

「ブラジルが反対の立場にいるのは衝撃的。とても残念だ。90年代にアフリカで広まったエイズをめぐって、TRIPs協定の柔軟性が叫ばれたとき、ブラジルはインドと、一貫して『すべての人に平等な医療アクセスを!』と主張していた。どの国よりも早く、エイズ治療薬の自国生産に乗り出し、それを国民に無料で供給したほど。平等な医療アクセスを、知的財産権の保護より優先すべきだと最もわかっている国なのに」(稲場氏)

ブラジルが今回、TRIPs協定の一部免除に反対する理由を、稲場氏はこう分析する。

「ブラジルが力を注ぐ航空機産業やアグリビジネスは、先進国並みに大規模。先進国に同調して、知的財産を保護する路線に転換したい野望もあるはず。こうした大企業の立場と、米国のトランプ政権にすり寄るボルソナーロ大統領の意向が一致したのではないか。伝統的に『すべての人への医療アクセス』を訴えてきた国内の左派や中道左派と、一線を画する狙いもあると思う」

稲場氏が所属する「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!」 連絡会は今後も、TRIPs協定をめぐる提案に反対する日本政府に、途上国にも目を向けて立場を考え直すよう、呼びかけていく予定だ。

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