モルドバ人「助けるのは当然」
AARが支援するもうひとつの避難所は、100人ほどのウクライナ難民が身を寄せるキシナウの公共保養所だ。宿泊部屋や広い食堂など設備が整っているので、ウクライナ難民に人気で常に満員となっている。
この保養所の問題は、他の避難所と同じく食料の確保だ。建物には100人分の食事を作る十分な広さの調理場と厨房スタッフがそろっているが、モルドバ政府による食料や資金の援助はない。AARの職員が保養所に到着した当初、肉専用の大型冷蔵庫はすっからかんだった。
モルドバで活動するAAR職員の本間啓大さんは「我々が来るまでは毎日、ありあわせの食材をかき集めて厨房で調理していたようす。とにかく難民の受け入れ規模に対して食料が足りなかった」と語る。
こうした状況を受け、AARはパスタやパン、生鮮食品、ヨーグルトなどを届け始めた。1日3食分の食材を100人分、1週間分まとめてトラックで配送する。
食材を調理するのは、保養所の厨房スタッフだ。肉料理からパン、サラダ、スープまで1食でそろい、満腹になるくらい栄養バランスが良い温かい食事を提供できている。
本間さんによると、保養所のスタッフは食料の調達に苦労していたが、それをウクライナ難民やモルドバ政府のせいにしなかったという。本間さんは「モルドバ人は、ウクライナ難民が来たから仕方なく対応しているというよりも、『戦争で困っているのなら助けるのは当たり前』と彼らを暖かく支えている感じだ」と話す。
モルドバ側の負担も重く
モルドバには4月上旬までに約40万人のウクライナ難民が逃れた。そのおよそ3分の2は、モルドバ政府が設置した難民センターに最大72時間を期限に一時滞在した後、ルーマニアなどの欧州連合(EU)諸国まで移動する。残る3分の1は「戦争が終わったら終戦後すぐウクライナに戻れるように」と期待してモルドバ国内にとどまるという。
懸念されるのは、ウクライナ難民の受け入れが長期化することによるモルドバ市民への負担だ。ウクライナ難民を自宅に無償で滞在させているモルドバ人も少なくない。善意で受け入れているが、難民を支えるために食材や日用品の出費がかさむことも事実だ。
欧州最貧国と呼ばれるモルドバでは、難民の受け入れには政府にも一般市民にも経済的な負担がかかっている。本間さんは「ウクライナ難民だけでなく、モルドバ側を支え続けるためにもAARは、難民に必要な食料や日用品を届けていきたい」と抱負を語る。