ウズベキスタンの中学教師が生徒への教え方をeラーニングで学ぶ、日本企業デジタル・ナレッジが事業化へ

デジタル・ナレッジがウズベキスタンに導入したeラーニングによる研修の一コマ。写真は、ウズベク語を使い、数学のモデル授業を見せているところデジタル・ナレッジがウズベキスタンに導入したeラーニングによる研修の一コマ。写真は、ウズベク語を使い、数学のモデル授業を見せているところ

eラーニング大手のデジタル・ナレッジ(本社:東京都台東区)は5月24日、国際協力機構(JICA)から受託し、ウズベキスタンで2019年から進めている教育協力プロジェクトの報告会を開催した。このプロジェクトは、公立校の7年生(日本の中学1年生)を担当する数学教師に小型タブレットとWifiを配り、基本的な「教授法(教え方)」などを3カ月にわたって教えるものだ。

授業への不安が消えた

ウズベキスタンの教育分野でいま問題になっているのは「教師の能力不足」「教師の数の不足」「教材の不足」「都市と地方の教育格差」の4つだ。

このうちデジタル・ナレッジが解決に挑むのは教師の能力不足。同社は2019年8月から2022年1月まで、JICAの支援を受け、全国14カ所の学校でeラーニング教育プラットフォームを活用した「教授法の研修」や「学力試験」など日本型教育の実証実験をしてきた。

このプロジェクトのウズベキスタン側のカウンターバートは国民教育省だ。国民教育省傘下のICT開発センターにデジタル・ナレッジの製品であるナレッジデリバー(学習管理システム)のソフトウェアを搭載したサーバーを設置。JICAの資金で教師にiPodタッチとポケットWiFiを配り、教授法をeラーニング形式とオフラインで教える。

実証実験のひとつである教授法の研修では、7年生を対象にした「基本的な教え方」と「代数幾何の教え方」をまとめた動画教材をプラットフォームにアップ。教師がいつでも学べるようにした。基本的な教え方とは「クラスをコントロールするための視線の配り方」や「考えさせる、参加させる授業」など、いずれも日本では教育指導要領として当たり前に導入されている内容だ。

研修に参加したのはウズベキスタン全国にいる14人の教師。研修で学んだ「声の抑揚を使って生徒の注目を集める」「授業や宿題を生徒のレベルにあわせる」「教師が黒板に書いた内容を生徒が書き写す時間を設ける」「生徒を励ます」などを、大半の教師は実際の授業で取り入れることができたという。

プロジェクトの担当者のひとりであるデジタル・ナレッジの臼井麻乃さん(国際開発ソリューション事業部)は「現場の教師からは『生徒が授業に積極的に参加してくれるようになった。授業を進めるうえでの不安も解消された』との話も聞く」と喜ぶ。

このeラーニング教育プラットフォームはまた、全国規模のオンラインテストを実施する際にも有用だ。ウズベキスタンにはこれまで全国統一テストがなかった。オンラインテストを実現することで、生徒が理解できていない点を教師が把握できるようになる。

今回のプロジェクトでも、約1000人を対象にした全国オンラインテストを実施。その結果、首都タシケントよりも地方の学校の平均点のほうがが高いなど、意外な結果が明らかとなった。

「無級」の教師が過半数

義務教育が11年のウズベキスタンは2019年、識字率100%を達成した。だが「教育の質の低さは依然として深刻な課題だ」と臼井さんは説明する。

教育の質を上げようとする際に足かせとなっているのが、ウズベキスタンには日本のような教員免許制度がないことだ。それに代わってあるのは、教師が昇級するための年に一度の資格試験。合格すると1ランクずつ上がる。格付けは下から、無級(不合格または未受験)、2級、1級、高級の4つ。だが無級でも5年に一度ある約1カ月の研修を受ければ教壇に立てるという。無級の教師は全体の過半数を占める。

ただ5年に一度の研修にも定員がある。受講できない教師には、文字だけが流れる映像教材しか配られないのが現状だ。臼井さんは「5年に一度の研修にも、デジタル・ナレッジが制作した動画コンテンツを組み込み、普及させたい。ウズベキスタンの教育レベルの向上に貢献できれば」と語る。

デジタル・ナレッジはウズベキスタンだけでなく、タジキスタン、キルギス、モンゴル、マレーシア、シエラレオネ、エチオピアなどでも学生や官公庁・企業の従業員を対象にeラーニングを導入してきた実績をもつ。

デジタル・ナレッジはeラーニングのプロジェクトだけでなく、現地の小学校で放課後に「電子そろばん教室」を開く。学んでいるのは小学校低学年の児童だ(写真はウズベキスタン国内の小学校)

デジタル・ナレッジはeラーニングのプロジェクトだけでなく、現地の小学校で放課後に「電子そろばん教室」を開く。学んでいるのは小学校低学年の児童だ(写真はウズベキスタン国内の小学校)