世界初のマラリアワクチン実用化なるか! マラウイ・ケニア・ガーナで試験投与スタート

マラリア原虫が感染した赤血球の写真(国立国際医療研究センターで)マラリア原虫が感染した赤血球の写真(国立国際医療研究センターで)

世界初のマラリアワクチンの実用化が近づいている。英国の大手製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)が30年近くかけて開発した「RTS,S」だ。マラリア研究の国内第一人者で、国立国際医療研究センター研究所熱帯医学・マラリア研究部の狩野繁之部長は「効果はあまり高くないが、実用化はほぼ間違いないだろう」と話す。

■接種は4回必要

RTS,Sは2014年、3段階ある臨床試験(ヒトを対象にした試験)の最終段階まで進み、有効性と安全性が認められた世界初のマラリアワクチンだ。19年4月からは、マラウイ、ケニア、ガーナのアフリカ3カ国で2歳未満児への試験的投与が始まった。ワクチンの副作用が想定以上に重いなどの問題が出ない限り、世界で実用化される見通しだ。

ただ課題もある。時間が経つと減っていく抗体(細菌やウイルスと戦う対抗物質)を最低限保つためには4回の接種が必要なことだ。狩野氏は「病院にも行けずに亡くなる人がほとんどなのに、何度も通院して接種することは可能なのか」と指摘する。ワクチンを実用化して終わりではなく、接種できる保健システムの整備は欠かせない。

1回の接種で済むワクチンも実はつくられていた。開発者は狩野氏だ。「マウスによる実験でも効果は明らかだった。だが作製方法が難しすぎて、製薬会社がワクチンを安定して供給できず、ヒトへの臨床試験まで進めなかった」

マラリアの予防対策として、ワクチンはまだないが、実は内服薬は2種類ある。メフロキン(商品名:メファキン)とアトバコン・プログアニル合剤(商品名:マラロン配合錠)だ。

問題は、メファキンは吐き気や幻覚症状などの副作用が強く出やすいこと。マラロンは毎日飲まないと効果はない。内服薬は保険が効かないので、病院で実費を負担することになる。一錠当たりの価格はメファキン830円、マラロン480円だ。短期の旅行者ならともかく、アフリカの人たちにとって一番の予防策は「蚊に刺されないこと」というのが現実だ。

世界保健機関(WHO)の 2018年世界マラリア報告書によると、2017年のマラリアの死亡者は全世界で43万5000人。5歳未満児の死因の6割(26万6000人)を占める。全体の死亡者の93%はアフリカ。国別に見ると、ナイジェリアが最も多い約8万3000人。コンゴ民主共和国(約4万8000人)、ブルキナファソ(約2万6000人)が続く。

■予防率100%!?

狩野氏が注目するワクチンはもうひとつある。実験段階でマラリア発症予防率100%を達成した「PfSPZ」だ。「つくるプロセスが新しい。しかも効果が極めて高い」と狩野氏は期待を寄せる。

PfSPZの仕組みはこうだ。まず、マラリアに感染した蚊の唾液腺から生きたマラリア原虫を取り出す。次に、その原虫に放射線をあて弱毒化させたものを、人体に入れて抗体を作らせる。

臨床試験の第1相(ヒトに薬を投与する最初の試験)で予防率100%を達成した。その後の試験は100%には達しないが、高い予防率を出し続けている。ビル&メリンダ・ゲイツ財団もこのワクチンに30億円を投資済みだ。研究は大きく進んでいる。

しかしPfSPZにも課題がある。それは、蚊の唾液腺を解剖することでしかワクチンの材料を得られないことだ。「1つのワクチンに1万匹の原虫が必要。感染した蚊の特別な飼育環境が必要になる」と狩野氏は説明する。PfSPZは実用化まであと十数年かかるといわれる。

マラリアワクチンはまた、製品化されても、運搬が難しいという難題がある。液体窒素で凍らせて運ぶ必要があるからだ。狩野氏は「アフリカ諸国の流行地に実際に持っていくことはできるのか」と指摘する。