ウガンダ・アチョリ族の間で流行した謎の「うなづき症候群」、2000人の子どもを見捨てないで!

患者とその家族が参加するミーティングのようす。課題を共有する(うなづき症候群対策ネットワークのホームページから引用)うなづき症候群の患者とその家族が参加するミーティングのようす。課題を共有する(うなづき症候群対策ネットワークのホームページから引用)

広島大学大学院人間社会科学研究科の西真如准教授はこのほど、日本アフリカ学会が開いた公開シンポジウムで、ウガンダ、南スーダン、タンザニアで2003~13年ごろにまん延したてんかんの一種「うなづき(うなずき)症候群」をテーマに講演した。ブユ(ブヨ)が媒介する「オンコセルカ」という寄生虫に起因すると考えられるこの感染症の原因はいまだ未解明。うなづき症候群は一度感染すると治らないという。

アチョリの子ども5%が感染

アメリカ疾病予防管理センターの2014年報告によると、うなづき症候群は、3~18歳の子どもに発症する。突発的に首を縦に振る(うなずくような)症状が特徴だ。地面に頭や額を打ち付けるため出血し、頭に包帯を巻く子どももいる。

症状はうなずくだけではない。進行性の脳神経障害を患うため、からだの発育や知能の発達が遅れたり、知的障害や運動障害を引き起こしたりすることもある。

怖いのは、眠るように意識がなくなったり、突然倒れたりすることだ。西氏は「地面で火を起こし調理していたところ、鍋の中に頭から倒れ、大やけどを負った話も聞く」と説明する。

発症者が集中するのは、ウガンダ北部のパデル県やキトゥグム県、ランウォ県など、アチョリ族が暮らす地域だ。不思議なことに2003~13年の10年間のみ流行した。この10年でうなづき症候群にかかった子ども(3~18歳)はおよそ2000人。これはアチョリ族の子どものおよそ5%を占める。

ウガンダのほか、南スーダン、タンザニアでも確認された。今のところ治療方法や予防対策はなく、死亡率も不明だ。

紛争も要因のひとつ?

ウガンダ北部では2006年まで20年以上、政府軍と反政府軍(神の抵抗軍=LRA)の紛争があった。このため住民の多くは不衛生な環境にある国内避難民キャンプでの暮らしを余儀なくされた。うなづき症候群の発症が、国内避難民キャンプでの生活を経験した子どもたちの間で多いことがわかっている。

西氏によると、うなづき症候群は、「オンコセルカ」と「紛争地だった過去」が合わさって引き起こされているのではないかという。「紛争後のストレスや食料の不十分さから、地域の住民は体が弱っていた。そこにオンコセルカが感染し、自己免疫反応によって脳神経障害が起き、うなづき症候群が始まったとする説が有力」(西氏)

もうひとつ考えられる要因は、ウガンダ全土にいるオンコセルカを駆除する作業が紛争後一時的にストップしたことだ。その時期には実際、うなづき症候群の感染者も多かったという。

ただオンコセルカが原因となる感染症は、実はうなづき症候群だけではない。激しいかゆみや皮膚のただれ、失明などが症状のオンコセルカ症もある。厚生労働省が2017年に発表したファクトシートによると、オンコセルカ症をわずらった感染者の99%がアフリカの31カ国で暮らしていた。ラテンアメリカではブラジル(主にヤノマミ族)やベネズエラで感染者が多い。イエメンでもオンコセルカ症が確認された。対照的にオンコセルカ症を撲滅できたのはコロンビア、エクアドル、メキシコ、グアテマラなどだ。

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