シリア支援28年の佐藤真紀さん「僕が助けなければ、この小児がん患者は死んでいた」

イブラヒムくん(9歳)一家の写真。急性骨髄白血病をわずらっていた。チームベコが医療費を毎月お送り続けていたが、帰らぬ人に。イブラヒムくんの父は公務員イブラヒムくん(9歳)一家の写真。急性骨髄白血病をわずらっていた。チームベコが医療費を毎月お送り続けていたが、帰らぬ人に。イブラヒムくんの父は公務員

助けない理由はない

アハマドさんの悩みは、佐藤さんにも覚えがある。

日本国際ボランティアセンター(JVC)の駐在員としてイラクで小児がん患者の支援をしていたときのこと。大人のがん患者をはじめ、支援の対象ではないいろいろな人たちが助けを求めにきた。だがJVCが決めた基準に合わない人は断るしかない。それを彼らに伝えた佐藤さんの部下が逆に、ひどい言葉で詰められたこともあったという。

当時の心境について佐藤さんは「(困っている患者の話を聞くのは)気が重かった。何かしたい。でもNGOとして何かができるわけではない。罪悪感だけが残った」と振り返る。

そこに横たわるのは「平等性を担保できない」という問題だ。「日本のNGOの多くは公的資金を活動費にしている。そのため1人の患者の医療費を出すことは『なぜあの子だけが?』とえこひいきになってしまう」(佐藤さん)

チームベコとしてサラーハくんへの送金を続ける意義を佐藤さんはこう考える。

「組織を否定しているわけではない。(組織による援助から)取りこぼされたものを拾っていく価値を認めてほしい。不平等だからやらない方がいいのか。それは絶対に違う。やらないよりはやった方がいい。それで一人助かるのだから」

とはいえ佐藤さんがいま頭を悩ませるのは、サラーハくんへの送金を今度どう続けるかだ。「クラウドファンディングをずっと続けるのは難しい。チームベコの学生メンバーも関心が薄れてきてしまっている。いまあるお金がなくなりそうになったら何か考えなければならない」と語る。

サラーハくん(中央)とイブラヒムくん(左)。右の大人の男性は赤新月社で働くアハマド・アスレさん(2021年9月)

サラーハくん(中央)とイブラヒムくん(左)。右の大人の男性は赤新月社で働くアハマド・アスレさん(2021年9月)

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