創立30年のNGOインターバンド、カンボジアPKOの殉職者・中田厚仁さんを題材に平和教育

絵本「中田厚仁物語」を手に持つ、コンポントム州のアツ小・中学校の子どもたち絵本「中田厚仁物語」を手に持つ、コンポントム州のアツ小・中学校の子どもたち

「中田厚仁物語」を2000冊配布

インターバンドがカンボジアで取り組むもうひとつのプロジェクトは、子どもたちへの平和教育だ。使う教材は、インターバンドの阪口直人理事が2019年に作った絵本「中田厚仁物語ー夢は世界を平和にすること」。阪口さんは、中田さんと同時期にUNVとしてカンボジアに派遣された。

印刷した3000冊のうち2000冊はアツ小・中学校を含むカンボジア各地の学校に、読み聞かせをしながら配布。残りは日本各地で20回以上実施した「絵本を読む会」などで売った。利益は補習授業の支援に充てる。

この絵本を使って阪口さんが平和教育を実施するのは、「アツ小・中学校の子どもや教師でも、中田さんがカンボジアのために何をしたのかをわかっていない」と感じたことがきっかけだ。

1968年生まれの中田さんは1992年5月、内戦が収束した直後のカンボジアで、政府に代わって総選挙を実施する国連カンボジア暫定機構(UNTAC)にUNVとして派遣された。特に危険な地域だったコンポントム州への赴任を自ら希望。「殺し合いではなく、皆さん(村人)の投票でカンボジアの未来を決めるのです」と投票を呼びかけたという。

総選挙まで残り1カ月となった1993年4月8日、車で移動中だった中田さんを武装集団が襲撃した。当時25歳だった。総選挙に反対するポル・ポト派の兵士の犯行ともいわれるが、犯人は捕まっていない。

中田さんの死は、世界に衝撃を与えた。多くのボランティアが自国に引き返す中、UNTACは予定通り5月23日に総選挙を実施。中田さんが投票を呼びかけていたコンポントム州の投票率は99%を超えたという。

投票箱の中には、カンボジアの平和のために尽くした中田さんへの感謝の手紙やその死を悼む手紙もあった。カンボジア全体の投票率も90%を超えた総選挙の結果、ポル・ポト派を除く3派の連立政権が誕生した。

カンボジア政府はその後、中田さんが倒れた場所をナカタアツヒト・コミューン(村)と名付けた。村人の要望を受けた父親の中田武仁さんが1998年、その村に建てたのが、息子の名前を冠したアツ小・中学校だ。

現地をこの8月に訪問した日本の大学生は「アツ小・中学校の子どもは、ポル・ポト派の兵士によって200万人が虐殺されたことや、内戦後の民主的な国づくりをUNTACが主導したことをよく知らない。この絵本をきっかけに、平和で民主的な社会について考えてもらえれば」と期待する。

ミャンマー避難民6755人に食料

インターバンドはカンボジア以外でも活動する。もうひとつのプロジェクトは、ミャンマーの国内避難民への緊急援助だ。

ミャンマー国軍が2021年2月1日にクーデターを起こしてから8カ月後、インターバンドは、国内避難民へ食料や医薬品を届け始めた。対象は、タイと国境を接するカレン州のイ・トゥ・タ避難民キャンプに暮らすカレン族など1508世帯(6755人)だ。約129万円分の物資を、タイのNGOボーダー・エマージェンシー・リリーフ・チームの協力を得て、タイからミャンマーへ運び込んだ。

インターバンドは2023年にも、同じ避難民キャンプにある学校へ通う子ども600人(5〜15歳)に学用品や生活用品を届ける予定だ。

インターバンドはカンボジアでもまた、2023年7月に実施されるカンボジア総選挙にあわせ、選挙監視団を派遣する予定だ。インターバンドの小峯茂嗣理事は「中田さんが亡くなった最初の総選挙から30年。日本人にとっても民主主義について改めて考える機会になる」と話す。

インターバンドは2022年12月28日まで、同団体の活動を支えるマンスリーサポーター50人を募集中。金額は1カ月500〜1万円を選べる。

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