バラモンのインド人が逆差別を語る、「入試で正答率80%超えても大学に入れなかった」

「留保制度を変えないと、インドの頭脳流出はもっと起きる」と流ちょうな日本語で訴えるアトレー・シュレヤスさん。現在は、日本で弁護士になることを目指し、駒沢大学法科大学院で学ぶ「留保制度を変えないと、インドの頭脳流出はもっと起きる」と流ちょうな日本語で訴えるアトレー・シュレヤスさん。現在は、日本で弁護士になることを目指し、駒沢大学法科大学院で学ぶ

平均収入以下のバラモンもいる 

留保制度は、インドが英国から独立して3年後の1950年に施行されたインド憲法第15条第4項に根拠を置く。採用した当初の目的は、異なるカーストの人同士の貧富の差をなくすことだった。

「留保制度が始まって70年経った今、カーストが貧富を分ける基準にはならない。カーストではなく収入で留保(優先)枠を決めるやり方に変えるべきだ」とアトレーさんは訴える。

アトレーさんがこう主張するのは、富裕層でもある下位カーストの人たちがいて、彼らが留保制度を悪用するという問題があるからだ。

アトレーさんの知り合いの下位カーストのひとりは高級車のランボルギーニを乗り回している。「こういったお金に困らない人たちも、カーストが低いというだけで、大学の入学金が全額免除され、また奨学金までもらえる。税金がこんなふうに使われるなんて」と憤る。

メディアの影響もあってか、とりわけ外国人は「上位カースト=高収入」と考える向きがある。プネ大学(SPPU)、ジャワハルラール・ネルー大学(JNU)、インド・ダリット研究所が2019年に実施した共同研究によれば、インドの資産の約4割を上位カーストが占めるとの結果もある。

これに対してアトレーさんは「現実は違う」と反論する。全国共通試験を受けた当時のアトレーさんの父の月収は平均値(約4万ルピー=6万4000円)を下回る3万ルピー(約4万8000円)だった。

「インド政府の政策は、上位カーストでも平均収入を下回る家庭を想定していない。経済的な手当をもらえず、また入試でも優遇されない中間層のバラモンの家庭を、インド政府は見てみぬふりをしている」(アトレーさん)

カーストは選挙の道具

アトレーさんはまた、「留保制度が続く背景には政治的意図がある」と主張する。2011年のインドの国勢調査によると、SC、ST、OBCは全人口の52%。この層の支持を得るために留保制度を使いたがる政治家が少なくないからだ。

「インドの政治家は選挙のたびに『自分たちを搾取してきた上位カーストを支持するな』と過半数を占める下位カーストの人たちに訴えかける。カーストは、選挙で勝つための武器になっている」とアトレーさんは説明する。

そもそも留保制度は時限立法だ。10年が期限となっている。だが「選挙で勝つために留保制度を都合良く利用したい」と考える政治家たちが延長を重ねてきた、とアトレーさんは言う。

留保枠をどこまで広げるかをめぐってはいまや、インド社会を揺るがす問題だ。インドの最高裁判所は2021年5月、「留保枠は5割を下回るべき」との司法判断を下した。にもかかわらずマハラシュトラ州では留保枠の拡大を求める声は絶えない。アトレーさんは「留保枠がこれ以上増えれば、インドは、下位カースト以外の人たちが生きていけない社会になる」と懸念する。

インドではすでに、逆差別を受ける高カーストの人たちは活躍の場を海外に求める傾向が顕著だ。アトレーさん自身も「自分のカーストが低かったら、日本に来ていなかったかもしれない」とこぼす。

留保制度の拡大を訴えるデモ(2018年8月、マハラシュトラ州プネで撮影)。デモに参加するのは「マラタ」というカーストの人たち。留保枠をわれわれにもくれ、と訴えていた

留保制度の拡大を訴えるデモ(2018年8月、マハラシュトラ州プネで撮影)。デモに参加するのは「マラタ」というカーストの人たち。留保枠をわれわれにもくれ、と訴えていた

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