【タイ選挙特集⑤】保守的な仏教徒の国王離れが加速? 民主派政党を支持か

敬虔な仏教徒のアース。「ラマ9世(プミポン国王)はもういない。『良き人』は昔とは違う」と話す敬虔な仏教徒のアース。「ラマ9世(プミポン国王)はもういない。『良き人』は昔とは違う」と話す

タイの国王を見本とし、教養と正しい仏教観をもつタイ人を「良き人」と呼ぶ。彼らは、これまで国王に忠誠を誓う親軍政党を支持してきたとされる。5月14日に予定される総選挙の世論調査で民主派の政党がリードする中、保守的な良き人たちはどこに投票するのか。(第1回はこちら

仏教の教えに近いのは前進党

「良いカルマ(行い)を続けることが理想的な生き方」

こう話すのは、二十歳のタイの青年アースだ。敬虔な仏教の家に生まれ育ち、週末には今も寺にお供えをする。また前国王のラマ9世(プミポン国王)を心から崇拝する。典型的な良き人だ。

だが支持する政党について聞かれると、アースは迷いなくこう答える。

「前進党。5月14日の選挙では前進党に投票する」

前進党が目指すのは、国軍の政治への関与を制限することと、国王に対する不敬罪の廃止。今、最も革新的な政党だ。本来なら、良き人との価値観とは相容れない。だがアースはこう説明する。

「前進党は本当の意味でタイ人のための政治をしようとしている。仏教の教えに最も近い」

仏教界のトップも国王が指名 

前進党をアースが支持する裏には、現国王(ラマ10世=ワチラロンコン国王)と、9年にわたって続く軍政への不満がある。

「国王は自分の気に入った人だけを優遇する。親軍政党はその国王の言いなり。信用できない」

アースが問題視するのが、ワチラロンコン国王が2017年にサンカラート(タイ仏教界のトップ)を指名したことだ。国軍がクーデターの後に設立した国家立法議会は2016年末、タイの仏僧団体について規定するサンガ法を改正。これにより、国王がサンカラートを指名できるようになった。それまではタイ仏教の最高機関「大長老会議」の同意でサンカラートは選ばれていた。

タイには大きく分けて2つの仏僧グループがある。ワチラロンコン国王が2017年に選んだサンカラートは、国王と親密だといわれる非多数派の仏僧団体からだった。

「国王は明らかに片方を優遇している。お金もそっちに多く流れているはず」とアースは言う。

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