「天候・災害リスクに強い開発」こそが貧困を減らす、世銀が報告書

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世界銀行は11月18日、貧しい人たちに気候変動が与えるインパクトをまとめた報告書「災害に強い社会の構築:気候・災害リスクを開発に組み入れる」(仮題)を発表した。このなかで、気候変動は貧しい人たちを“貧困の罠”に閉じ込めており、「天候・災害リスク管理」を開発計画に組み込まない限り貧困は削減できない、と強調した。

■災害被害額は過去33年で380兆円

世界で1980~2012年に起きた災害を経済的コストに換算すると、総額3兆8000億ドル(約380兆円)にも上る。この74%(2兆6000億ドル=約260兆円)が気候変動に起因している。また自然災害の犠牲者の数も、過去30年で250万人以上とものすごく多い。

とりわけ深刻な影響を受けているのは、天候・災害リスクへの対応能力が低い途上国だ。世銀グループのジム・ヨン・キム総裁も、貧しい人たちが犠牲者であることを認めている。

そうした例のひとつが、ソマリアやエチオピア、ケニア北東部などの「アフリカの角」を2008~10年に襲った干ばつだ。最も多い時で約1億3000万人が飢餓に苦しんだといわれる。ケニアだけで121億ドル(約1兆2100億円)の経済被害が発生した。

経済への悪影響は、とくに経済成長が著しい中所得国で大きい。その理由は、資産の価値が高まっている一方で、資産が保護されることなく危機にさらされているためだ。2001~06年の6年間、中所得国の災害による平均被害総額は国内総生産(GDP)の1%を占め、この比率は、高所得国の10倍に相当するという。

もうひとつ忘れてならないことは、世界の注目を集めるような大災害だけでなく、小さな災害も数が積み重なれば、大きな被害になるということだ。南米コロンビアでは、1972~2012年の40年で起きた小規模災害の被害総額は、同時期の大規模災害の総被害額の2.5倍にも達したことがわかっている。

■成果が出るのは2100年以降

だが難しいのは、世界がいま、温室効果ガスの排出量を削減しても、その効果がすぐに表れないことだ。研究によると、2100年以降だという。その理由は、温室効果ガスの多くが大気中に残り続けること、気候システムは急激には変化しないことがある。

そうした現実を踏まえて、世銀が重要視するのは、貧困層にいかに天候・災害リスクへの強靭性(レジリエンス)をもたせる開発を進められるかだ。

象徴的な取り組みのひとつが、世界各国で現在導入されている「早期警報システム」だ。報告書によると、このシステムの防災効果は高く、初期投資コストの4~36倍の利益をもたらすと証明されている。

たとえばインドでは、早期警報システムを導入したことで、2013年にインド東部を襲ったサイクロン「ファイリン」の犠牲者は40人にとどまった。同じぐらいの規模とされる1999年のサイクロンの犠牲者が約1万人だったことを考えると、驚くべき効果をもたらしたといえる。

ただ課題もある。それは、初期投資のコストが高額なこと。既存の構造物を建て直すより、安全性のより高いインフラを構築するほうが10〜50%多くの費用がかかる。2008年にナミビア洪水が起きた後、洪水危険地域で高架道路の建設や排水路の改善といった安全性の高いインフラを建設する必要が生じたが、そのコストは被災した構造物の建て直しの5.5倍となった。

■長期的で柔軟な視点が重要

報告書は、気候・災害リスクを開発に組み込む上での「原則」を下のとおり示している。

1)気候・災害リスクに強い開発には、安定した基金に基づく長期的で柔軟なプログラムが不可欠

2)リスクの特定は、将来の不確実性を考慮に入れた意思決定に効果的に活用されるべき

3)リスク管理には、家族、地域、国、国際社会など異なる主体の相互補完的な活動が必要

4)制度を構築する際は、多様な利害関係者のインセンティブを考慮に入れるべき

5)「人々の資産を守る」という目的を見失ってはならない

(鈴木瑞洋)