学費が月収の半分
障がい児をもつ母親を三関さんが雇う大きな理由は、家庭の収入を増やすことで、彼らが学校に通い続けられるようにしたいからだ。
障がいの種類は脳性まひ、手足の変形、聴覚障害などさまざま。年齢は6~25歳。地域の学校の通常学級や特別支援学級、障がい児のための特別支援学校などに通う。
だが入学しても中退してしまうケースは少なくないという。ネックとなるのが費用の高さだ。特別支援学校の場合、子どもは寮に入るのが一般的。家から一人で通うのが難しいためだ。
学費と寮費を合わせると、公立の学校でも1カ月に9700ケニアシリング(約1万円)ほどかかる。ケニアの平均月収はおよそ1万8000ケニアシリング(約2万円)なので、その半分だ。
特別支援学校をやめた小学生のひとりは一日中家にいる生活を送る。母親が出かけるときは、祖母や親せきが面倒をみる。三関さんは「その子にはきょうだいがいる。障がいのあるその子に学費と寮費を払うよりも、障がいのないきょうだいに学費を払うことを親は優先する」と残念がる。
羊毛はシャンプーで洗う
羊毛からフェルト生地を作るのは大仕事だ。まず絡み合った毛先をすべて切り離す。次に、沸かしたお湯に羊毛を漬け、人間が使うシャンプーを大量に入れる。毛に付いた油を落とすためだ。
三関さんは「シャンプーはケニアでは高級品。それにケニア人は、髪の毛をひんぱんに洗う習慣がない。だからシャンプーを使うと言うと、みんな驚く」と笑う。
油の落ちた羊毛を陰干ししたら、ハンドカーダと呼ばれるくしでほぐしていく。同時に、ひとつひとつ手作業でごみを取り除く。この作業は5日ほどかかる。三関さんは「ここが一番大変。このプロセスが終わると、羊毛の量は買ったときの半分ぐらいに減っている」と言う。
最後に、カーダ機と呼ばれる紡ぎ車で毛並みをきれいに整える。素材はこれで完成だ。
「ハンドカーダの使い方に手間取っていたお母さんたちも、最近は手慣れてきた。私が何も言わなくても、(カーダ機にかける前の状態まで)準備できるようになった。商品をひとりで作れるようになってもらうのが次の目標」(三関さん)