「10年後は故郷のミャンマーでヘアサロンを開くんだ」。笑顔でこう語るのは、タイ・バンコクのバーに勤務するタングモーさん(26歳)。彼女は、ミャンマー・モン州で家族を支えられるだけの収入を得られず、2017年にバンコクにやって来た。
タイ人から怠け者扱い
端正でキリッとした顔立ちが印象的なタングモーさんは週6日、午後3時から午前1時までバンコク中心部のシーロム通りにあるバー「Marcus x Wine Climats」で働く。仕事の内容は調理とフロアの清掃だ。
彼女の職場のバーの従業員の8割はミャンマー人、2割はタイ人。オーナーはタイ人だ。タングモーさんによると、ミャンマー人を差別するタイ人も多いという。
「一生懸命に働いているのに、タイ人の同僚からは『怠け者だ』とオーナーに告げ口される。給料も上がらない。タイ人は、客が払うチップと会計に含まれるサービス料を100%もらっているのに、ミャンマー人だとごまかされて30%しかもらえない。業務中にタイ人は座っていいのに、ミャンマー人は立ち続けないといけない」。そう彼女は苛立ちを見せる。
落ち着くのは給料日
タングモーさんには同じバーで働くミャンマー人の夫がいる。月収は夫婦合わせて3万バーツ(約12万7000円)。故郷のモン州ではゴムの樹液を採取する仕事をしていて月収20万チャット(約9000円)ほどだったから、10倍以上アップした。
収入は上がったが、3万バーツから、親への仕送りに1万バーツ(約4万2000円)、家賃に3500バーツ(約1万5000円)、交通費に6000バーツ(約2万5000円)を捻出する。生活は苦しい。節約のため、毎日自炊。交通費を抑えるため、4万バーツ(約17万円)のバイクを買うことも検討中だ。
お金に苦労している彼女にとって一番落ち着くのは「給料をもらえたとき」。一番叶えたい願いは「宝くじで当選すること」という。
自分たちの生活だけで大変にもかかわらず、バンコクに住むミャンマー難民にお金と服を送るなど積極的に助けるタングモーさん。彼女の家に来て1カ月になる “居候”も、ミャンマー国軍に抵抗して故郷を追われた難民だ。「ミャンマー難民はみんな将来のことを心配している。お金のこと、ビザのこと、住まいのこと」
また、バンコクは騒がしい都市。一方、彼女の故郷は緑が広がり小鳥のさえずりが聞こえるのどかな村。「バンコクは故郷のモン州の村と違っていつでも電気が使えて便利だが、がちゃがちゃして気が休まらない」