感謝されたいというより「許されたい」、戦場だったコロンビア貧困地区で橋を作る元国軍軍曹

元国軍兵らが立ち上げた、内戦の被害者やその地域を修復するために勤労奉仕活動をする団体「フンダシオン・エキポ・レスタウラドール」の一員であるファビオ・リオスさん。活動を記録したノートはすでに2冊。文字と写真がぎっしり詰まっている

「世界最恐」とかつて呼ばれた、コロンビア第2の都市メデジンにある貧困地区コムナ13(13地区)。この場所で橋や公園を作るボランティア活動を続ける人がいる。元コロンビア国軍副一等軍曹(Sargento viceprimero)のファビオ・リオスさん(54)だ。人のために戦った27年の軍歴とゲリラ掃討作戦への参加を誇りに思う一方で、「犯罪者を殺してゲリラ兵に偽装して報告した過去」には深い後悔がある。償いたい思いが彼を突き動かしている。

殺さなければクビになる

リオスさんが国軍に入ったのは18歳のとき。当時のコロンビアでは兵役義務が今よりもずっと厳しく、首都ボゴタの北部のレストランで働いていた彼も徴兵された。訓練は過酷で、4~5カ月休みなしの勤務が続き、やっと1、2週間の休暇で家族に会えたという。

軍人としての生活を重ねるうちに、「民間人を守るために戦う」という誇りを持つようになった。「コロンビアにはゲリラがいる。国軍がないと安全にならない」と強い使命感を抱いていたリオスさん。「休みや息抜きは何もない。人のためゲリラと戦うことが“趣味”だった」と振り返る。

リオスさんの27年の軍歴のなかで、強く心に残る経験がある。それは、ウリベ大統領(当時)が2002年10月に敢行した「オリオン作戦」だ。かつてはゲリラや麻薬組織がはびこり「世界最恐」と呼ばれたコムナ13でゲリラを一掃した作戦だ。

リオスさんもこの作戦に参加した。死者およそ90人、行方不明者100人以上。ただ実際は犠牲者の多くはゲリラとは無関係の民間人だったとされる。逮捕者は数百人にのぼった。

なぜ多くの民間人が殺されたのか。

その背景には「ファルソ・ポジティーボ(偽の成果)」と呼ばれる、国軍に当時はびこっていた悪しきやり方があった。国軍の一部の部隊は「ゲリラを倒した」という偽の成果を示すため、無実の民間人を殺して「あたかもゲリラ兵だった」ように偽装したのだ。

リオスさん自身は2度、犯罪者を殺してゲリラに偽装した過去がある。「殺さずに捕まえるべきだった。ただ敵を殺して成果を得なければ、国軍からクビにされる。だから成果を出せない兵士たちが焦って民間人を殺した」と後悔を口にする。

それでも「オリオン作戦は必要だった。それまでコムナ13はゲリラの言いなりだったから。平和のために必要な戦いに参加したことは誇りに思う」と続ける。国軍にいたころも、ボランティア活動をする今も、根本にあるのは「人を守り、助けたい」という変わらない思いだ。

メデジン・コムナ13の「ごみだらけの場所」を公園に変えた時のようすをつづった記録。リオスさんのノートから

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