【亡命ジャーナリストが見るミャンマー】「不正な選挙」に慄く市民と国軍の暴虐

国軍が侵攻してきたミャンマー南部のタニンダーリ管区ダウェイとその周辺から逃れてきた国内避難民ら

世界最貧国のひとつであり、地方を中心に広範な範囲で内戦が続くミャンマー。4年9カ月前の軍事クーデターで権力を掌握した国軍は先ごろ、この12月に選挙を実施する計画を発表した。これをどうとらえるか、タイに亡命したミャンマー人ジャーナリストに寄稿してもらった。

7000人超を殺した国軍

軍事クーデターが起きる前のミャンマーは、アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が2016年から政権を担っていた。2000年に実施された前回の選挙でもNLDは圧勝。ミャンマーはより発展し、豊かな国になるだろう、とミャンマー市民は期待を膨らませていた。

ところが国軍は2021年2月1日、軍事クーデターを起こした。NLD所属のウィンミン大統領、NLD党首でもあるアウンサンスーチー国家顧問をはじめ、選出された国会議員らを逮捕・投獄した。ミャンマーはこれ以降5年近くにわたって国軍の支配下にある。国軍はこれまでに7000人以上を殺害し、2万人以上を政治的な理由で拘束した。

言うまでもなく、選挙は民主主義体制の本質であり、また象徴だ。では12月のミャンマーの選挙はどうなるのか。

ひとつ確かなのは、投票が行われる前から、誰が権力を握るかが決まっていることだ。

選択肢のない選挙

ミャンマーのすべての市民は、国軍系の政党である連邦団結発展党(USDP)が選挙の後に権力を掌握することを知っている。

USDPは、2020年の選挙で決定的な敗北を喫した政党だ。今回の選挙には勝てるよう、国軍は、圧倒的な民意をバックにもつNLDを解党させた。これだけでは飽き足らず、自らが容認する政党のみに立候補者を立てることを許可し、それ以外の政党の選挙への参加を妨害している。

今回の選挙に臨むのは全国で6つの政党だ。擁立した候補者の数をみると、USDPが最多の1018人。旧軍部から派生した国民統一党(NUP。ネウィン独裁政権を担ったビルマ社会主義計画党が前身)が694人で2位だ。

国民に選択肢がないことは明らかだ。誰に投票しようと、毎日爆撃し、国民を殺りくする国軍が支持する議員が権力を握ることは確実だ。

国軍が牛耳る選挙管理委員会の発表によれば、カチン州、シャン州、ザガイン管区、タニンダーリ管区などにある28の地区(タウンシップ)では選挙を実施する必要すらない。なぜならUSDPしか候補者を立てていないからだ。

国軍はすでに、支配下の地域で、有権者名簿の公表と選挙運動を始めた。加えて、投票への啓もうや投票のやり方を教えることを名目とした「教育的なイベント」への参加を市民に強要している。

軍政の傘下にある選挙管理委員会の職員が、軍人を対象に、電子投票機の使い方を実演しているところ

1 2 3