難民申請中の女性が作る本場のクルド料理はいかが? 食材は日本の農家が提供

酸味と辛味の中にうま味を感じるクルド料理の数々。上から時計回りに、ナンのような生地で具を挟んだ「クロール」、タマネギやトマトを混ぜたご飯をぶどうの葉で巻いて煮込んだ「サルマ」、乾燥した赤ピーマンやナスにサルマの中身を詰めた「ドルマ」。中心にあるのは鮮やかなピンク色のピクルス酸味と辛味の中にうま味を感じるクルド料理の数々。上から時計回りに、ナンのような生地で具を挟んだ「クロール」、タマネギやトマトを混ぜたご飯をぶどうの葉で巻いて煮込んだ「サルマ」、乾燥した赤ピーマンやナスにサルマの中身を詰めた「ドルマ」。中心にあるのは鮮やかなピンク色のピクルス

埼玉県川口市に住むクルド人女性レフシャンさん(仮名、20代)が、故郷であるトルコ南部のガジアンテップ県の郷土料理(クルド料理)を売っている。食材を無償で提供するのは、日本の農家らが集まるコメと野菜でつながる百姓の会。この会の発起人である大野和興さんは「在日クルド人は難民と認定されずに厳しい生活を送る。そのうえ2月に起きたトルコ地震の被災者も助けていると聞いた。やるしかないと思った」と話す。 

クルドに関心をもってくれる

レフシャンさんが作るクルド料理は、酸味と辛味が強いのが特徴だ。野菜の煮込みには、クエン酸、赤唐辛子、中東料理に使われる香辛料「スマック」を使う。赤紫色をしたスマックは中東に自生する植物の実を乾燥させたもので、赤しその風味がする。

主食の定番は、レフシャンさんが生地から作ったパン。小麦の料理をよく食べるクルド人は、焼きたてのパンを毎朝作るという。チーズとトマト、ピーマンを乗せた「ポアチャ」という丸いパンは朝食にぴったりだ。

レフシャンさんは2022年から、こうした手作りのクルド料理を販売するハニムのだいどころを始めた。といっても自前の店はない。イベントに出店したり、店を借りたりして営業する。

初めての出店は、川口市で22年11月に開催された「移民・難民フェス」。雨にもかかわらず、1時間ですべての料理が売り切れた。「クルドに関心をもってくれる人がたくさんいる」とレフシャンさんは手応えを得た。

23年からは月に1回程度、さいたま市の「ヘルシーカフェのら」で、ビュッフェやランチプレートを提供する。事前予約制で、毎回ほぼ満席という盛況ぶりだ。「店の名前のハニムは、クルド語とトルコ語で女性という意味。女性が運営する女性のための店を作りたかった」(レフシャンさん)

トルコ料理と言われたくない

レフシャンさんには「私が作るのはトルコ料理ではなく、クルド料理だ」という自負がある。

国をもたない世界最大の民族といわれるクルド人は、トルコ、シリア、イラン、イラクがある地域に暮らしてきた。現在は4000万人ほどいるとされる。そのうちトルコに住むのは1500万人(トルコの人口のおよそ20%)。だが少数民族として迫害され、クルド語を話すことも禁止されているという。

レフシャンさんが日本語を学ぶ、在日クルド人女性のためのオンライン日本語教室Gemini(ジェミニ)を主催し、トルコ語の通訳でもある磯部加代子さんも、複雑な心境を明かす。

「(トルコを代表するお菓子の)バクラバに使うピスタチオの産地として有名なのは、レフシャンさんの出身地であるガジアンテップ。(本当はクルドの料理なのに)トルコ料理と紹介されると、やりきれない」

ジェミニのボランティアの日本語教師らは、在日クルド人女性に日本語を教えながらハニムのだいどころの仲間としても活動する。「レフシャンさんが経済的に自立するため、クルドの食文化を紹介するため、私たちは手伝っているだけ」(磯部さん)

クルドの伝統衣装カフタンを着るレフシャンさん。「形が悪い野菜も刻んで使える。私がなんでも料理するし、困っている人に配る。だから余った食材を捨てないで」と語る

クルドの伝統衣装カフタンを着るレフシャンさん。「形が悪い野菜も刻んで使える。私がなんでも料理するし、困っている人に配る。だから余った食材を捨てないで」と語る

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