国軍が侵攻してきたミャンマー南部のタニンダーリ管区ダウェイとその周辺から逃れてきた国内避難民ら取り残される高齢者
食べ物と住む場所の確保にすら苦労する人たちは選挙にまったく関心を示さない。ただ恐怖に震えている。国軍の支配下にある地域では現在、戸別訪問による若い男性の強制徴兵、恣意的な逮捕・投獄、無差別の発砲が絶えない。
軍政が2024年に徴兵法を施行して以来、若者らは「強制的な徴兵」という最悪の恐怖に直面してきた。徴兵された場合、国軍と戦火を交える民主派の武装勢力・少数民族の武装組織との最前線に国軍兵として送り込まれ、戦死するからだ。
これを避けようと、労働者階級の若者はあらゆる手段で隣国のタイやマレーシアへ逃れる。また経済的にやや余裕のある層は日本や韓国へ出国している。
タイとの国境に近いミャンマー南部のダウェイとその周辺では、若者らが次々に国外脱出。その一方で、高齢者が取り残されるといった事態が起きている。自宅に閉じこもる人たちは、国軍への恐怖から「圧力を受ければ、投票を強制されるだろう」と口をそろえる。
ダウェイで暮らす53歳の女性は「軍から呼び出されれば、誰も逃げられない。私たちは彼らの支配下で生きているのだから。生き延びることが最優先だ」と本音を漏らす。
選挙が近づくにつれてミャンマーでは、SNSに批判的な投稿する人たちの逮捕・投獄が増えている。
選挙を前に増える「戦争犯罪」
今回の選挙を国軍は主に、支配下の都市部で実施する計画だ。農村や国境地帯は少数民族の武装勢力や、NLD傘下の武装組織「国民防衛隊(PDF)」がほぼ掌握しているからだ。
国軍は2025年半ばごろから、民主派勢力が支配する地域で爆撃、襲撃、村全体の焼き討ちを増やしてきた。こうした作戦が原因で、女性や子どもを含む民間人の死傷者が急増。民主派が樹立した「国民統一政府(NUG)」の人権省も10月、「不正な選挙」が近づくにつれ、民間人に対する国軍の犯罪行為が加速度的に増えている、と事態を憂慮する声明を発表した。
政治アナリストらは「国軍が戦争犯罪をエスカレートさせるのは、選挙を確実に実施できるよう治安を強化することと、恐怖を受け付けることで国民の士気を下げることが目的だ」と指摘する。

民間の援助団体が国内避難民に食料を配っているところ。彼らは、ミャンマー南部のタニンダーリ管区で起きた紛争から逃れてきた














