「ミャンマーに帰りたい」と穏やかに話すキャッティハンさん。束の間の息抜きは、ミャンマー料理屋が集まる屋台街メモリーズ・オブ・チェンマイで食事しながら、同胞と語ること。タイ・チェンマイの自宅で撮影国軍兵を殺しても感情はない
キャッティハンさんと友人2人が率いるザガインのPDFは1000人の兵士を抱える大所帯となっていく。拠点は、ザガイン市近郊のミングォンに置いた。
攻め込んできた国軍との1時間の戦闘で、PDFは100人の国軍兵士を殺したこともあった。周囲にそびえる山から迎え撃つ。ただ味方も国軍の空爆を受け、このときは3人の兵士を失った。
ザガインのPDFは戦闘機こそないものの、戦闘用ドローンは保有する。10個の爆弾を一度に詰め込めるという。
キャッティハンさんはスナイパーとして、戦闘が激しかった3カ月で合計60人を殺した。「最初は、人を殺してしまった、と錯乱状態に陥った。眠れなかった。悪夢も見た」
キャッティハンさんの師匠であるKIAの幹部からは「感情をもつな。人間を殺したと思うな。PDFは国軍兵と戦っているのではない。ミャンマーを支配する国軍というシステムを壊すために戦っているんだ」と教えられた。
その教えどおり、キャッティハンさんは「無感情」を強く意識する。軍に抵抗するデモや戦闘で30人以上の友人が死んでいったが、「彼らはいま、天国で安らいでいると思う」。キャッティハンさんはこの言葉を何度も繰り返した。
無実の姉夫婦が投獄・虐待
母国の民主化に文字どおり命を懸けてきたキャッティハンさんだが、その裏で実は大きな代償を払ってきた。
そのひとつが、姉と姉の夫の逮捕だ。容疑は「PDFに寄付したこと」。「でも姉はそもそも寄付していないし、父からは『国軍から、息子(キャッティハンさん)を連れてこい。そうすれば娘(キャッティハンさんの姉)を釈放してやる、と脅された』と聞いている」とキャッティハンさんは説明する。
姉夫婦には生後10カ月の赤ん坊がいた。キャッティハンさんの親が姉夫婦に代わって面倒を見る。
姉夫婦を被告とする形だけの裁判が行われた。「弁護士も、裁判官も軍政に操られている。正義なんてない」。姉は15年、姉の夫は10年の実刑判決を受けた。姉も姉の夫も刑務所で平手打ちなどの虐待を数回受けた。
姉は現在、刑期を短くしてもらう条件で、近くの公立病院で働く。仕事の内容は、負傷した国軍兵の傷の手当や世話をすること。弱みに付け込んだやり方だが、赤ん坊と会えない姉にとっては現実として選択肢はない。














