世界人口の7割超が「権威主義体制」下で暮らす、ヒューマン・ライツ・ウォッチが警鐘

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の『世界報告書2026』。世界100カ国以上の人権状況を網羅する

ベネズエラでは弾圧が激化

2026年に入って世界を驚かせたのは、1月3日未明の米軍によるベネズエラ・カラカスへの空爆とマドゥロ大統領夫妻の拘束だった。空爆では数十人の軍人と2人の民間人が死亡した。キューバ政府は、マドゥロ大統領を警護していたキューバ軍の将校32人も犠牲になったと発表した。

ベネズエラ国内では、2024年の大統領選でマドゥロ氏が不正で3選を決めたことを契機に反政府運動が起こった。それをマドゥロ政権が激しく弾圧。2025年11月時点で884人が政治犯として拘束されたままだ。拷問・強制失踪・性的暴力を含む「極度の残虐行為」が人道に対する罪にあたる、と国連の事実調査団(FFM)も認定する。

弾圧と経済危機から逃れるために700万人以上のベネズエラ人が国外に脱出した。世界最大規模の移民危機のひとつとなっている。

エルサルの巨大刑務所で拷問

米国へ渡ったベネズエラ人のうち数百人をトランプ政権は、1798年に制定した「外国人敵対法」を根拠にエルサルバドルの巨大刑務所CECOTへ強制移送した。「ここでは拷問や性的虐待が行われた」とHRWは問題視する。

エルサルバドルのブケレ大統領はトランプ大統領を公然と称賛する権威主義的な指導者だ。HRWは、エルサルバドル・米国両国の連携がCECOTに収容されたベネズエラ移民らの権利を著しく損なっている、と批判する。

ロシアの戦争犯罪は不問に?

ロシアによるウクライナへの民間人の無差別爆撃、捕虜への組織的拷問、子どもたちの誘拐・ロシアへの強制移送も深刻だ。

だがトランプ大統領はロシアのプーチン大統領に圧力をかけるどころか、ウクライナのゼレンスキー大統領をテレビカメラの前で叱責し、ロシアが犯した戦争犯罪への「完全恩赦」を提案した。完全恩赦とは、ロシア軍によるウクライナ市民への虐殺、拷問・性暴力、民間インフラへの攻撃、子どもの強制連行などの行為について訴追・処罰しないことを条件に和平交渉を進めるというものだ。

こうしたやり方は許されるべきでない、とHRWは激しく批判している。

また、「世界最大の民主主義国」の異名をとってきたインドでも、近年はモディ政権がヒンドゥー至上主義を推進し、イスラム教徒やキリスト教徒への弾圧に加えて、野党の有力候補者の訴追、書籍の発禁、独立メディアへの圧力などを強める。

さらにミャンマーでは2021年に軍事クーデターが起きて以来、軍政は弾圧を継続している。

Z世代が立ち上がり始めた

希望の動きもある。2025年は、ネパール、インドネシア、モロッコでZ世代が腐敗・公共サービスの劣化・不平等に対して大規模な抗議活動を展開した。

ネパールでは政府のSNS規制と汚職に抗議する学生が議会前に集結。またモロッコでは10月に首都ラバトで若者が教育・医療改革を求めてデモを打った。HRWは、こうした市民の力を「変革のエンジン」と評価する一方で、民主的な参加の場が制度的に保障されなければ、デモの成果は簡単に失われる、と付け加えた。

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