ミャンマーからの脱出で動き出した新たな人生、チェンマイでグラフィックデザイナーに転身

ピィテインチョウさん(30歳)は、ミャンマーからタイに逃れると同時にグラフィックデザイナーになる夢を叶えた。「自分の作品で社会に影響を与えたい」と言う。好きな漫画は『進撃の巨人』

ピィテインチョウさん(30歳、男性)は鉄道関連の安全管理エンジニアとして働いていたが、ミャンマーの軍政が導入した徴兵制から逃れるため祖国ミャンマーから脱出。タイ北部の都市チェンマイに移り住むとともに、グラフィックデザインの仕事で新たな人生を始めた。

 見えない活路

「エンジニアの仕事は誇りに思っていたけれど、心のどこかで、自分の本当にやりたいことは別にあると思っていた」。テインさんはミャンマー最大の都市ヤンゴンに住んでいた当時を思い出してこう語る。

そうした時、ミャンマー国軍によるクーデターが起きた。2021年2月、テインさんが26歳の時だ。「僕も抗議デモに参加した。国軍を放置することは間違っている」

市民のデモは繰り返されるにつれて加熱していき、国軍は2021年5月、デモ隊に発砲し始めた。「友人が撃たれた。幸いその友人は6カ月の治療を経て命を取り留めた。けれどもニュースで、命を落とす市民が多くいることを知った。その中には平和的に抗議する学生、妊婦、高齢者も含まれている。国軍は許せない」

抗議活動と国軍による鎮圧は本格的な内戦に移行していく。民主派側の軍事組織である人民防衛隊(PDF)が組織され、そこに参加した市民は軍人として本格的な武装で軍政に対峙していった。

家族の中で真っ先にPDFに参加したのは、テインさんの4歳年上の兄だった。「兄の勇気は僕にとっての誇り。海外の人からすると、市民が武装することは暴力的なように思われるかもしれない。だけど少なくとも僕は、PDFに参加した人たちが武器を手に取ることは間違っていると思わない。そうせざるを得なかった十分な理由がある」

自分も仕事を辞めてPDFに合流すべきか。そう考えていたテインさんを引き留めたのは父だった。「兄が危険な戦場に向かう中、もう一人の息子である僕まで命の危険に身をさらすのは耐えられない、と言われた」

テインさんは漫画家を職業とする父親を尊敬していた。父譲りでテインさん自身も絵を描くのが好きだった。「描くことを生業にできる父のようになりたい気持ちは常にあった。でも人生は思い通りにはいかない。とはいえ、安全管理エンジニアのまま人生が終わっていいのだろうかという疑問をもったまま暮らしていた」

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