エンベラチャミ族が暮らすカルマタルア先住民保護区。ここは、コロンビア政府から自治権を一部認められている。原始的というよりも「素朴な村」という感じ。アカバブルはこの地で、また地元の子どもたちが出演して撮影された「女性が自由に笑ったり、表現したりするのは素晴らしいこと」。こう語るのは、コロンビアの先住民のひとつエンベラチャミ族の口承神話を現代風にリメイクした短編映画『アカバブル』の監督を務めたイラティ・ドフーラ・ヤガリさんだ。この映画はエンベラチャミ語を使った世界で唯一の作品で、2025年のベルリン国際映画祭でも上映され、ひそかな話題となった。
妻が夫を笑うのはご法度だった
アカバブルの撮影場所となったのは、コロンビア第2の都市メデジンからバスでおよそ4時間のところにあるカルマタルア先住民保護区。ここは、自身もエンベラチャミ族であるヤガリさんの生まれ故郷だ。エンベラチャミ族の地元の子どもたちもこの映画に出演している。
主人公は、エンベラチャミ族の少女カリ。彼女は笑うことを恐れて生きてきた。エンベラチャミ族の神話では女性(妻)が男性(夫)を笑うことは悪いことだと信じられてきたからだ。
映画は、エンベラチャミ族の口承神話に登場する女性キラパラミアと彼女の夫の物語から始まる。夫はある日、「果物を摘みに行こう」と妻に言い、2人は森へ向かった。
木を登り始めた夫は腰巻きが破れて全裸になってしまう。その姿を見た妻は笑い出す。声は徐々に大きくなっていく。夫は怒り狂い、「黙れ!」と叫ぶ。すると妻の髪の毛が一本一本と抜け落ち始める。悲鳴と笑い声が混じり合う奇妙な光景がスクリーンに出てくる。
夫は果物を投げて妻を追い払い、恐怖と怒りに駆られて走り去っていく。一方の妻は神々から罰を与えられた怪物へと変貌してしまう。
アカバブルに登場する年配の女性ケラは、夫を笑ってはいけないという神話を、笑いはむしろ力の源泉だと解釈し直した。「笑うことで自由になれる」とカリに教える。感銘を受けたカリは、笑いを通していじめっ子たちに立ち向かっていく、というのが物語だ。
ヤガリ監督は「笑いは罪ではなく、女性の自由の象徴、というところが神話との大きな違い。神話は変わっていくもの。私たち先住民の力で、神話をポジティブな意味にしたい」と語る。
アカバブルはいわば、エンベラチャミ族の誇りと現代の課題を重ねあわせながら、女性の罪悪感からの解放や自己表現の重要性を問いかける作品といえる。

エンベラチャミ族の神話をリメイクした短編映画『アカバブル』の監督を務めたイラティ・ドフーラ・ヤガリさん(右)とプロデューサーのラウラ・ヒラルド・ミラさん(左)。ふたりは、エンベラチャミ族の少女が笑うことを恐れる心理と、それを乗り越えていく過程を映画の中で描いた














