大学の勉強会がNGOに! 「質の高い学習機会をすべての人に」をネパールで目指すサルタック・ジャパンの荒木啓史代表理事に聞く

1117河合さん、荒木氏P1010362[1]サルタック・ジャパンの荒木啓史代表理事

「国連ミレニアム開発目標(MDGs)の『初等教育の完全普及』では不十分。Quality Learning for All(質の高い学習機会をすべての人に)を目指さなければならない」。こう意気込むのは、ネパールで教育支援するNGOサルタック・ジャパンの荒木啓史代表理事だ。面白いのは、サルタックの母体は大学の勉強会であること。サルタックの活動理念と設立の経緯、ネパールの教育問題などについて荒木代表理事に話を聞いた。

――「質の高い学習機会をすべての人に」に込められた意味を教えてほしい。

「文字通り、質の高い学習機会を提供すること。MDGsは『初等教育の完全普及の達成』を掲げている。この達成期限である2015年を前に、ネパールでは初等教育の就学率は90%以上に達した。ところが学校に通っても、読み書きできない、計算できないという子どもは少なくない。『形』だけの教育を受けてもあまり意味がない。『質』を伴う教育を提供していくことが、ますます重要になってきている」

――NGOの名前になったサルタックとは何か。

「サルタック・シクシャは、ネパール語で『有意義な教育』という意味をもつ。人種や民族、貧富の差などに関係なく、すべての子どもが有意義な教育を受けられることをサルタックは目指している」

――サルタックの母体となったのは大学の勉強会と聞く。設立までの経緯は。

「私が大学生だった2005年、国際教育開発に関心のある学生で勉強会を始めた。勉強会では、その分野の研究・実践動向について学習。どうすれば途上国で質の高い教育を普及させられるかなど議論を重ねた。

ただし当時は、あくまで研究対象としてしか国際教育開発をとらえていなかった。メンバー同士で『将来、一緒に何かできたら理想』と話してはいたが、具体的なNGOの構想はなかった」

――NGOを設立したきっかけは何か。

「ひとつの転機は、勉強会メンバーだった畠山勝太が進学先の大学院で、日本の教育を研究していたネパール人シャキャ・ディプと知り合ったこと。(畠山氏は 国連児童基金本部・ジュニア教育エコノミストで、サルタック・ジャパンの理事。ディプ氏は国連児童基金ネパール事務所・教育コンサルタントで、サルタッ ク・ネパールの代表)

シャキャ・ディプは、日本で博士号を取得後、アジア開発銀行などで教育分野の専門家として活躍。他方、畠山も大学院での研究に加え、世界銀行本部などで実務経験を積んでいた。その間、2人は少しずつNGO設立の構想を具体化した。最終的に、彼らの呼びかけにより当時の勉強会メンバーでサルタックを立ち上げることとなった」

――サルタック・ジャパンはどんな活動をしているのか。

「国際教育開発の潮流と市民社会の役割に関するシンポジウムを東大で開催した。今後はファンドレイジング(資金調達)やインターンの受け入れにも力を入れていきたい。

将来的には、学力調査・分析を通じて活動を改善し、政策提言を目指していく。世界中のすべての子どもたちが質の高い学習機会を獲得し、子どもにとっても社会にとっても、より良い将来を実現していくことができれば理想的だ」