サブサハラの教育で重視すべきは「低学年指導政策」、ロンドン大学のオケチ准教授

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ポストミレニアム開発目標(MDGs)を巡る動きの中で、議論が白熱している分野のひとつが、教育の「質」の問題だ。ロンドン大学教育研究所のモーゼス・オケチ准教授は11月23日、「サブサハラ(サハラ砂漠以南)アフリカにおける教育のアクセスと質の対立」のテーマで講演した。主催は、ロンドン大学教育研究所のアフリカン・ソサエティー。

サブサハラの高卒率は12%

「教育へのアクセス」と「教育の質」は同時に達成することが難しい。2つを両立させるシナリオをいかに描けるかが、教育と開発を考えるうえで重要なカギとなっている。

サブサハラ諸国では1960年代、アクセスを重視した政策を推進した。その結果、質の低下を招いた。このため80年代に入って、質を重視した「コスト・シェアリング政策」(教育経費の受益者負担)に着手したところ、今度は貧困層を中心にアクセスが下がってしまった。

サブサハラ全体でみると、初等教育の純就学率は2003年で93%。これは80年代の約50%と比べて大きな進歩だ。それでも世界平均には届いておらず、「ユニバーサルサービス」(誰もが等しく受益できる公共サービス)といえる状況にはまだ至っていない。

だがもっと問題なのは、初等教育の完了率は59%と、およそふたりにひとりが中退していることだ。これは、MDGsの目標「2015年までに、全ての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにする」の達成がかなり危ういことを意味している。

さらに深刻なのは、後期中等教育(日本の高校に相当)を完了するのは全体のわずか12%にとどまっているという現実だ。8割以上の生徒が途中で学ぶ機会を失っている。この現象を「内部効率性」の問題と呼ぶ(留年・退学する生徒が少なく、規定の年数で卒業する生徒が多いと、内部効率性は高くなる)。

留年や退学の理由はさまざまだが、質の低い指導により生徒が授業についていけなくなることが多い。これによって親が子どもを学校に行かせる意味を見失うこともある。内部効率性の向上には、教育の質を上げることが不可欠といわれるゆえんだ。

■公教育は質が低いのか?

教育の質を改善するうえでカギとなるのが、政府による公的教育への支出だ。だがサブサハラでは、公的教育支出が他の地域と比べて少ないという問題がある。

サブサハラ以外の地域では、中等教育学校(日本でいう中学・高校)に占める公立校の割合は約9割。しかしサブサハラでは約6割で、残りの4割を私立校が占めている。

ケニアの教育の質についてオケチ准教授が数年前に実施した調査研究によると、子どもを学校に送るスラムの親は「公立校より私立校の方が質の高い教育を提供している」との認識をもっていることがわかった。

実際は、公立校が質の低い教育を提供しているとは限らない。93年の初等教育無償化(FPE)以来、貧しい家庭の子どもも公立校に通えるようになったため、質が下がっていると感じる親が多いようだ。

■中退を減らすのが肝心

オケチ准教授は「課題は、サブサハラの政府が初等教育の第1~3学年の初期指導を重視していないことだ」と指摘する。

仮にスキルの低い教師がいた場合、彼らが担当するのはたいてい低学年だ。教室の不足により、100人以上の児童がひとつの教室で授業を受けることもざらにある。こうしたなか、児童の立場で考えると、低学年の段階で十分な能力を習得しておかなければ、学業の継続が困難になりかねない。

オケチ准教授は「教育全体のシステムの改革から着手するのではなく、まず政府の取り組み姿勢(マインド)を変え、低学年指導から強化すべきだ。資源をここに優先的に投入し、子どもの学業成果を出すことに集中することで、質の向上が期待できる」と強調する。

教育の質の向上を議論する際、どう質を測るのか、という質の定義の重要性はよく話題にのぼる。だが「どの学年に注目するか」といった“時期に対する見方”も欠かせない。

■質とアクセスの両立は可能

教育のイノベーションを起こす際に必要なのが効率的なプランニングだ。

「第1~3学年の低学年指導に集中的に資源を配分し、生徒の能力(主に読み書き・計算)や学力到達度に注目することが、最も効率的で、安価で、また持続可能なプランニングだ」とオケチ講師は強調する。

低学年指導の質が上がれば、中退が減り、その結果、中学・高校へ進学する子どもが増える。内部効率性の改善はアクセス向上につながる。低学年指導への資源集中は、教育のアクセスと質を両立できる可能性を秘めているといえそうだ。