【セネガル協力隊がゆく(3)】絵を描いて変わった中学生たち、「できない」から「自信」へ

Exif_JPEG_PICTURE絵に色を塗るセネガルの中学生たち

■横浜の小学生と壁画制作

遠く離れた日本と外国の子どもたちが一緒になって1枚の壁画を制作する取り組みがある。「アートマイル国際交流壁画共同制作プロジェクト」(JAMプロジェクト)と呼ばれるものだ。壁画といっても、大きなビニールシートを壁に見立てて、絵を描く。

このプロジェクトではまず、インターネットの掲示板やメールを使い、それぞれの地域や学校、生徒について互いに紹介する。その後、どんな絵を描くか、構図や作業の分担はどうするかなどについて相談し、壁画を共同制作する。半年のプログラムだ。

青年海外協力隊員としてセネガルに赴任する前から私は、日本とセネガルの学校を橋渡しする活動をしたいと願っていた。JAMプロジェクトはそれにはうってつけなので、私の任地であるセネガル北東部の町ダーラの中学校の生徒たちを指導して、参加することにした。

交流先は、6月に開かれる第5回アフリカ開発会議(TICAD V)の開催地、横浜市の小学校に決まった。2012年9月からスタートし、2月に絵は完成した。だがそれまでのプロセスは山あり谷ありだった。

■「上手に描く自信がない」

ダーラの中学生と横浜の小学生は、それぞれの国を代表するスポーツの絵を描くことになった。横浜の小学生が先に、ビニールシートの右半分に柔道や剣道の絵を描き、それが1月末、ダーラに到着した。

ここからが大変だった。下描きをスタートしようと生徒たちに作業を促しても、「私にはできない」「上手に描く自信がない」と不平不満をぶつぶつ言い始めたのだ。

やる気を出さない生徒たち。私はちょっと落胆しながら、何とかモチベーションを上げてもらおうと言った。「うまく描けなくてもいいよ。自分でやってみることが大事なんだよ!」。ところが生徒たちはなかなか腰を上げてくれなかった。

聞くと、ダーラの中学校ではもともと、美術を学ぶのは1年間のみだった。しかもその担当教師は2012年7月に定年退職。それ以来、後任の教師は来ず、いまでは美術の時間はゼロだ。ダーラでは小学校でも、図工の授業は1週間に15~30分しかない。絵を描く機会が極端に少ないため、自信をもてない生徒らが嫌がる気持ちはわからなくもないと同情した。

それでも私は、生徒たちに絵を描き、色を塗ってほしかった。なぜなら、こうした作業の楽しさと完成後の達成感を味わってもらいたいからだ。

作業は、授業のない土曜日を使う。生徒の集まりは悪かった。とくに苦労したのが絵の下描きだ。私の期待に反して、生徒は2人しか来ないから、作業は遅々として進まない。2月中に絵は完成できるのだろうか、との不安が私の脳裏をよぎった。

■「ものすごくかわいい!」

ところが下書きを終え、色を塗り始めた途端、生徒たちはがぜん、やる気を出し始めた。「黄色の絵の具はどこ?」「茶色ってどう作るの?」「背景は、青と黄色にしよう!」。色塗りには8人が参加し、それぞれが自主的に動き、あっという間に、カラフルで素晴らしい絵が完成した。

出来栄えはどう?と私が生徒に尋ねると、「ものすごくかわいい!」「良い作品でしょ」と自信満々。その姿を見て、私は感動するほど嬉しかった。セネガルの生徒たちは、絵を描けないのではなく、描いてこなかっただけなんだ、と納得した。私はこの時、JAMプロジェクトを通して、生徒たちが絵を描くこと、塗ることに自信をもったのではないかと感じた。

この経験はまた、私にとってもセネガルの教育のあり方を考える良いきっかけにもなった。

セネガルの教育は試験に合格することを重要視する。そのため試験科目はみっちり勉強する。だが考えてみると、セネガルでも、勉強が得意な生徒もいれば、勉強は苦手だけど芸術に秀でた生徒もいるはず。子どもにとって美術を学ぶことは、新たな自分を発見するのにとても大事なのではないか。

私は正直、日本にいる時は美術や図工の授業なんて教育に必要なのかなと疑問視していた。だがセネガルに来て、いろんな子どもたちのポテンシャルを見つけるのに絵は必要だと考え直した。JAMプロジェクトは終わったが、これからも生徒たちに絵を描く機会を与え続けたい、との気持ちを強くした。(セネガル=藤本めぐみ)