【環境と開発の接点(10)】インディヘナにみる環境、「自分で作れないもの」が「ごみ」になる

2007.09.01aパウイパというインディヘナの村。一番近い村までも歩けないほど離れている「陸の孤島」。地名の由来である『パフイ』(黒い鳥)は、13年前に移って来たときはたくさん生息していたが、全部食べてしまったとのこと

ベネズエラ南東部のマリパ村やその周りには多くのインディヘナ(先住民の総称)が住んでいる。いまから1万年以上も前にベーリング海峡を渡って来た人たちの子孫だ。エンジェルの滝(落差は世界一)付近を中心に広く分布するペモン族を例に、その暮らしや思想を「環境」と絡めて紹介したい。

お尻は何で拭く? “箸”でうんちを落とす

「えっ、インディヘナは葉っぱで拭くんじゃなかったの?」

マリパ(私が暮らす人口3000人の村。オリノコ川の南方に位置する)在住のペモンの男、ホセ・メヒアスさん(56歳)とビールを片手に雑談していたとき、ふと、うんちをした後のお尻の処理はどうするのかという話題になった。

「葉っぱ? そんなの無理だよ。ちゃんと拭き取れないでしょ。棒を使うんだよ、棒を」

「棒? えー、刺さっちゃいそうだな。痛くないの?」

「葉っぱには虫が付いているでしょ。そっちのほうが痛いよ。棒だよ、棒!」

この棒を後日、作ってもらった。といっても枝をテキトーに折るか、太目の枝をカマで縦に割るか。やり方は人それぞれ。形はまるで箸。それを上下に動かしてうんちを落としていくという。3~4本で事足りるらしい。

「うんちがちょっとお尻に残っちゃうんじゃない?」

「そんなの乾けば、ポロッと落ちるよ」

「えっ、それでいいの?」

インディヘナの村にはトイレがない。だからみんな茂みに隠れて用をたす。もし全員がトイレットペーパーを使い始めたらどうなるか。あっという間に、辺り一面、紙だらけになってしまうだろう。

穴を掘って埋めればいい、と思うかもしれない。ただそれにはスコップが必要。だがそんな高価なものはインディヘナの村にはない。第一、乾季の地面はカラカラ。それになにより棒はタダだし、いっぱいある。自然と共存する彼らにとってトイレットペーパーは必需品ではないのだ。

インディヘナのスプーンは日本の「れんげ」!?

マリパからクルマで40分、自然保護区の中に「パウイパ」というペモンの村がある。電気もガスもトイレもなく、狩りをし、キャッサバを作り、薪で料理をする、フツーのインディヘナの村だ。

そこで食事を振る舞ってもらったことがある。この村では家族ごとではなく、住人全員(およそ30人)がチュルアタ(ヤシの葉っぱで屋根を葺いた家。壁はない)に集まって食べる。それぞれの家庭が料理を持ち寄り、分け合うのだ。

「どんなものを食べているの?」と尋ねると、カシケ(酋長)の弟であるイスマイル・モラレスさん(37歳)は「シカ、ワニ、イノシシ、バク、ナマズ‥‥を森や川で捕まえてくるんだ」と笑う。

ペモンの代表料理は「トゥマ」というスープ。川魚、クマチ(キャッサバをベースにしたソースで、心なしかしょう油味がする。スパイスとしてアリが入っているものも!)、トウガラシ、塩に水を加えただけの素朴な味付けだが、これが日本人の口にとてもあう。

そのトゥマは土鍋で煮込む。出来上がったら、それを“深めのしゃもじ”で取り分けていく。このしゃもじも、また汁を啜るスプーンも、皿も、さらにはコップまで、ほとんどの食器はひょうたんのような実で作られたものだ。

ユニークなのはスプーン。形だけ見れば、ラーメンのスープをすくう「れんげ」そっくり。コップも茶碗みたい。アジアっぽいテーストに、はるか遠い昔のつながりを感じてしまう。

この実は、サイズが大きなものは「タパラ」、小さなものは「タパリータ」と呼ばれる。樹木だったり、つる植物だったりいくつかの種類がある。

「タパリータのコップは熱いものを入れても、ほらっ、外側は熱くないでしょ。使いやすいんだ」(イスマイルさん)

工場で大量生産したものではなく、自然の素材をそのまま利用しているので、形もいろいろ。さりげない丸みが心を和ませてくれるし、愛着も湧くから大事に扱いたくなる。壊れたら外に投げ捨てたって構わない。忘れたころに自然に返ってくれるだろう。

「なんでプラスチック製品ばかり使うの? タパリータのコップでいいじゃん。ずっと健康的だし」とマリパの人(混血の典型的なベネズエラ人)に突っ込んでみた。すると「だいぶ前に割れちゃって‥‥」と興味なさそうな答えが戻ってきた。

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