援助団体のスタッフがシリア難民女性をセクハラ、ヒューマン・ライツ・ウォッチが告発

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、レバノンに逃れたシリア難民の女性が宗教系援助団体のスタッフからセクハラを受けていることを告発する声明を発表した。12人の被害者から2013年8~9月に証言を得たもので、難民女性らが援助と引き換えに性的嫌がらせをされている実態が浮き彫りとなった。

加害者となっているのは、難民の雇用者や家主、地元の宗教系援助団体のスタッフ、地域の人たちだ。ヒアリングした被害者12人のうち8人が未亡人か未婚、または夫がレバノンにいない状況だった。

■「俺の相手をするか、娘を寄こせ」

ダマスカス出身のハラさん(53)は、夫がシリア政府に拘束されたまま、ベイルート郊外で家政婦として働き、自分と4人の子どもの生活を支えてきた。これまでに働いた10の家庭のうち9つで、男性の雇い主に胸を触られたり、性行為を強要されたという。

特にひどかったのは、男性の雇い主が、ハラさんの16歳の娘にまで手を出そうとしたことだ。「俺の相手をするか、娘を寄こせ。従えば、もっと金をくれてやる」と迫られたこともある。精神的ショックを受けたハラさんは現在、仕事の斡旋は断り、教会の支援を得て暮らしている。事態が改善されるとは思えなかったため、事件をレバノン当局や国連に訴えることはしなかったと話す。

レバノン北部で暮らすホムス出身のザフラさん(25)は衣料品店で働いていたとき、雇い主に後ろから抱きつかれた。胸を触られ、性行為に応じるよう強要されたと明かす。その店は辞めたが、別の店でも同じ目にあった。ザフラさんはうつ状態に陥り、働きに出るのを止めた。一家は、ザフラさんの収入で月300ドル(約3万円)の家賃を払っていた。

ザフラさんは一度、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に被害を訴えたことがある。女性のケースワーカーは同情してくれたが、「できることは何もない」と突き放されたという。ザフラさんは「滞在許可証の期限が切れているけど、更新するお金がない。(身柄を拘束されるかもしれないので)警察にも行けない」と諦めた。

■レバノン人口の4分の1がシリア難民

UNHCRによれば、レバノンに滞在するシリア難民の数は11月20日時点で82万4000人以上。これは、レバノンの人口に占めるシリア難民の割合が近いうちに4分の1を超えることを示す。こうした事態から、レバノンの失業率は上がっている、と世界銀行の報告書も憂慮する。

レバノン政府は、正規に入国したシリア難民に対し、6カ月の滞在許可証を無料で発給し、6カ月の延長を認めている。1年が経過すると、難民であってもレバノン在住の他の外国人と同様に、1年の滞在許可証の発給に200ドル(約2万円)を支払う必要がある。この金額は多くの難民にとって大きな負担だ。だが滞在許可証がないと逮捕されるリスクがある。

HRWのリーズル・ゲルントホルツ女性の権利局長は「国際社会は、家族を支えるために難民女性が性的な人権侵害を受け入れざるをえない状況に陥らないよう、必要なリソースを提供すること。レバノン政府と人道団体は、難民女性を保護・支援する制度を導入すべきだ」と訴える。