インドで止まらない女子新生児殺し、タミルナードゥ州の「赤ちゃんポスト」は是か非か

インドでは「女の子の赤ちゃん殺し」が収まらない。女子の新生児はある時は水路やごみ箱に捨てられ、ある時は親に毒で殺され、またある時は生まれる前に殺される。この問題の是非を考える記事をロイターは12月3日、ホームぺージに掲載した。

■救った命は数千!

こうした残虐な行為を防止するため、インド南部のタミルナードゥ州政府は1992年から、“捨てられる運命にある新生児”の世話を親が匿名で同州に任せられる「ゆりかごの赤ちゃん政策」を進めてきた。親が望まない女子の新生児を福祉施設などが受け入れて育てる。いわゆる「赤ちゃんポスト」のひとつだ。これまでに救った命は数千に上るという。

タミルナードゥ州の中でも、新生児の遺棄がとりわけ深刻なのはセーラムだ。この地区の児童保護担当者は「女の子の赤ちゃんが水路やごみ箱に捨てられるのはよくあること。赤ちゃんが生きている場合もあるが、すでに死んでいることもある」と話す。「一人目の女の子は生まれても大丈夫。でも、二人目、三人目は殺されてしまうことがある」

ゆりかごの赤ちゃん政策が始まった20年前、親たちは、人目を避けて新生児を施設に委ねに来ていた。だが最近は堂々と渡しに来るという。

施設へ預けられた女子の新生児は「ライフ・ライン・トラスト」と呼ばれる養子縁組に出すシステムに孤児として登録される。ゆりかごの赤ちゃん政策がスタートして以来、貧しい親やシングルマザーが3700人以上の新生児を預け、このうち3600人以上が中流階級の夫婦に引き取られた、と州政府は発表している。

■新生児の遺棄を後押し?

女の子を身ごもった場合、妊娠中絶もポピュラーな間引き方だ。超音波を使った胎児の性別判定はインドでは違法だが、胎児が女子とわかると多くの親が中絶を選択する。医学雑誌ランセット・メディカル・ジャーナルは2011年、過去30年でインド全体で1200万の女子の胎児が中絶されたとの記事を載せた。

性別判定を依頼する金銭的余裕がない貧しい地域ではやはり、中絶よりも乳幼児殺しが多くなる。正確な数字は定かでないが、タミルナードゥ州では少なくとも毎月1~2人の新生児は捨てられているか、死んだ状態で発見されている、と州政府や活動家などは明らかにしている。

2013年6月にはタミルナードゥ州ダルマプリで、女子の新生児に毒入りミルクを飲ませ、殺し、遺体を埋めた容疑で父親が逮捕される事件も起きた。

新生児・胎児殺しは、インド人口の男女比を大きく歪めている。1961年は、男性1000人に対する女性の比率は976人だった。ところが2011年は919人にまで減っている。

だがどうして女子の新生児は嫌がられるのだろうか。その主な理由は「ダヘーズ」(結婚持参金)による経済的な圧迫だ、と活動家らは指摘する。ダヘーズとは、結婚する際に女性側が男性側に金品を贈る習慣のこと。ダヘーズの金額が少ないと新婦が殺される事件も多発している。法律はダヘーズを禁止するが、今もなおこの習慣は続いている。

タミルナードゥ州政府によると、ゆりかごの赤ちゃん政策が実施されている地域では男女比の開きは改善されるなど、成果を残しているという。だが人権活動家らは「この政策は、赤ちゃんを遺棄することを推し進めている。女の子の赤ちゃん殺しの根本的な解決にはなっていない」と批判する。(田中美有紀)