「手洗い」で新型コロナの拡大を食い止める! 水・衛生のNGOウォーターエイドが奮闘

ネパール・キルティプルのバス停にウォーターエイドが設置した手洗い設備で手を洗う地元の子どもたち。足元のペダルを踏むと水とせっけんが出る。蛇口を触らなくて済む(WaterAid/ Mani Karmacharya)ネパール・キルティプルのバス停にウォーターエイドが設置した手洗い設備で手を洗う地元の子どもたち。足元のペダルを踏むと水とせっけんが出る。蛇口を触らなくて済む(WaterAid/ Mani Karmacharya)

水と衛生を専門とするNGOのウォーターエイドが、せっけんを使った手洗いの普及で、新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めようと世界各地で奮闘している。足踏み式手洗い設備を設置したり、それぞれの国の言語で書いたポスターを貼ったり、手洗いを呼びかける動画をテレビで流したりする。ウォーターエイドジャパンの高橋郁事務局長は「人の命を守るために大切なのが手洗いだ」と語る。

■蛇口に触れずに手洗いできる

新型コロナ対策でウォーターエイドが力を注ぐのは、「手洗い設備の設置」と「新型コロナに感染しないための予防の啓発」の2つの活動だ。

手洗い設備の設置では、ネパールやウガンダをはじめ各国で、人の集まるバス停や保健医療施設の入り口などに「足踏み式の手洗い設備」を置いた。これは、ペダルを足で踏むと水とせっけんが出て、蛇口に触れずに手を洗えるもの。蛇口を消毒する必要もない。

足踏み式手洗い設備を導入したネパールのガンガラル国立心臓病院のパラティバダン・ドンゴル看護師長は「感染予防に役立っている」と喜ぶ。

啓発活動では、ポスターや動画を制作した。内容は、指の間や手首もしっかり洗うこと、咳やくしゃみをするときは口や鼻をおさえること、握手などの接触を避けることなどだ。

アフリカ南東部のモザンビークの首都マプトでは、正しい手洗い方法をイラストで説明したボードを乗せたトラックを巡回させた。インドでは、英語、ヒンディー語、南インドのカルナータカ州の公用語カンナダ語など7つの言語でポスターを制作。ネパールでは、70の路線を走るバスの車体に正しい手洗いの方法などを伝えるメッセージを掲示した

バングラデシュでは、感染予防を訴えるラップソングを作り、テレビやラジオ、モスクの大型スピーカーで流した。

障がい者への配慮も欠かさない。手洗いの仕方や予防対策を、手話を使って説明した動画も作った。ザンビアやバングラデシュでは、車いすに乗ったまま使える手洗い設備を設置した。障がい者が使いやすいよう、足元のペダルや膝の高さにあるプレートなどを使って水やせっけんを出すしくみになっている。

こうした活動以外にもウォーターエイドは、世界各国や国際機関に対して、新型コロナ対策として、せっけんと水で手を洗うことができる環境づくりに力を入れるよう働きかける。

高橋事務局長は「手洗いの大切さの理解は深まっている。だが今なお、せっけんと清潔な水を使った手洗いができない家庭や保健医療施設が多くある。にもかかわらず、新型コロナ感染症対策として、水と手洗いがあまり重視されていない」と懸念する。

■インドのフッ素症を予防する

ウォーターエイドはもともと新型コロナの感染が拡大する前から、アジアやアフリカで水と衛生の問題の解決を目指す活動を続けてきた。

そのひとつが、インド東部に位置するオディシャ州で深刻な「フッ素症」の対策だ。フッ素症とは、フッ化物が含まれる地下水を飲み続けることで、歯が褐色になったり、関節が硬直したり変形したりする病気。杖を使わないと歩けなくなったり、寝たきりの生活を送ったりする人もいる。

インドでは1000万人以上がフッ素症を患っているといわれる。最近の被害増加の原因は、気候変動や長年くみ上げてきた地下水が減り、フッ化物の濃度が上がり、そうした危険な水を飲まざるをえなくなったことだ。

ウォーターエイドは、オディシャ州でフッ素症を患う人が多い主要因である飲料水の問題に取り組んでいる。この地域で、安全な飲料水を得られない理由はいろいろあるが、そのうちの1つは、村の水・衛生の状況確認などに責任をもつ水・衛生委員会が機能していないこと。もう1つは、安全な飲料水を得られる設備について情報が不足していることがあげられる。

こうした問題を解決するためウォーターエイドはまず、地元のNGOと協力し、水・衛生委員会の立て直しを図ることにした。

水・衛生委員会のメンバーと村人を集め、ワークショップを開催。村のどの井戸を改善すべきかを議論し、また村のどこに井戸があるか、村のどの辺りにどんな問題があるのかを書き込んだ地図を作った。

その内容をベースにウォーターエイドは、この辺りに井戸を作ったほうが良いといったアドバイスを送る。それを参考にして水・衛生委員会が改善計画を立て、政府から予算を確保するといった具合だ。

次に実行したのが、フッ化物汚染が起きない給水設備の設置。水・衛生委員会と村人が主体となって、地域の特徴に合わせて、手押しポンプ付きの井戸、雨水貯留タンク、表流水を利用した給水設備を設置した。

ウォーターエイドがかかわるのはモデルとなる給水設備づくりだけ。給水設備が壊れても修理できるよう、住民や修理工にノウハウを教えるという。

■手洗い定着のカギは「鏡とうちわ」

ウォーターエイドがネパールで実施し、成果を挙げたのが、手洗いなどの衛生習慣を教える「定期予防接種時の衛生促進プロジェクト」だ。ネパールの保健省が主導し、ウォーターエイドは技術的なサポートを行った。パイロットプロジェクトを2016年に開始。その後スケールアップしている。

プロジェクトの対象となったのは、生後9カ月までの乳児を育てる母親だ。ネパールでは、生後9カ月までに間に、乳児は医療機関で5回の予防接種を受ける。母親が乳児を連れて予防接種にやって来るタイミングでウォーターエイドは衛生習慣についてゲーム形式で学ぶ機会を作った。

また、5つの衛生習慣をイラスト入りで書いた鏡やうちわも配った。5つの衛生習慣とは、①せっけんで手を洗う②食べ物を衛生的に扱う③トイレを使い、子どもの排せつ物を安全に処理する④飲料水とミルクを安全に扱う⑤母乳で育児をする。

このプロジェクトが終わった1年後、ウォーターエイドは衛生習慣の定着度を調べた。その結果わかったのは、5つの衛生習慣を守る家庭の割合が2%から53%へと劇的に上がっていたこと。その理由について高橋事務局長は「普段から目につくところに衛生習慣を貼ってあったのが奏功したのではないか」と推測する。

清潔な暮らしをするようになった結果、下痢や病気になる子どもも減少。学校を中退する子どもが減ったとの報告もあるという。

モザンビークのマプトでは、新型コロナ対策として、正しい手洗い方法をイラストで説明したボードを乗せたトラックを巡回させる。ウォーターエイドが展開する予防啓発キャンペーンのひとつ(WaterAid/Signus/Edson Artur)

モザンビークのマプトでは、新型コロナ対策として、正しい手洗い方法をイラストで説明したボードを乗せたトラックを巡回させる。ウォーターエイドが展開する予防啓発キャンペーンのひとつ(WaterAid/Signus/Edson Artur)