知られざるミスコン物語、人生を賭けて挑む途上国の美女たち

内田有理さんが2015年のミスコーヒー(女王)に選ばれた瞬間。アジア人初の快挙だった内田有理さんが2015年のミスコーヒー(女王)に選ばれた瞬間。アジア人初の快挙だった

「インターナショナル・クイーン・オブ・コーヒー」(ミスコーヒー)というミスコンテストがある。開催地は、南米コロンビアの中部に位置するマニサレス。コーヒーの産地として有名な街だ。世界各国の美女が参戦するミスコーヒーは南米屈指のミスコン。2016年1月9日に45回大会が開幕する前に、15年グランプリ(女王)に輝いた内田有理さん(26)をインタビューした。聞き手は、16年大会に日本代表として出場する冨田七々海。

――このミスコンの目的は何ですか。

「地元のマニサレスコーヒーのPRが狙いです。『この大会で優勝すれば、コロンビアの知名度は思うがままだ』と主催者が言うほど、コロンビアでは有名な大会です。世界各地から20人以上のミスが勢ぞろいし、クラウンをかけて競います。毎年1月に開催され、16年は45回目となります」

――内田さんは15年1月、この大会でアジア人初の女王に輝きました。女王としてこの1年間、どんな活動をしてきましたか。

「コロンビアコーヒー生産者連合会、全日本コーヒー連合会などと一緒にコロンビアコーヒーの素晴らしさをPRしてきました。デパートの施設やコーヒー関連の展示会でアピールしたり、SNSを使ってコロンビア文化を発信したり。日本で15年に『国際コーヒーの日』(10月1日)が制定されたのですが、その活動にも力を注ぎました。

女王の期間がこの1月で終わった後も、コーヒーにかかわる仕事がしたいです。商社でコーヒーの売買に携わったり、またいつか、自分のカフェも開いてみたいです」

マニサレス祭りでのパレードの様子。各国のミスたちが、華やかな伝統衣装「マノラ」に身を包み、祭りを盛り上げる

■コーヒーの「料理バトル」が大盛況

――女王として選ばれる審査基準は何ですか。

「外見と内面の美しさはもちろんです。水着やイブニングガウンでのウォーキングといった伝統的な審査があります。この大会がユニークなのは、カプチーノのラテアートや、コーヒーのテイスティングであるカッピング技術などの審査もあることです。

審査基準が他のミスコンとは違うため、必ずしも完璧な美女が勝つわけではありません。各国のミスの個性や文化が表れ、見どころ満載です」

――印象に残った審査はありますか。

「特におもしろかったのは『料理バトル』です。各国のミスがそれぞれコーヒーを材料に使ったレシピを考案し、それを実際に作ります。みんな、自国の伝統料理とコーヒーをコラボレーションさせるのですが、個性的で奇抜なものや、プロ並みの美しいスイーツ、はたまた料理が苦手で大失敗してしまったり、とハプニングの連続で大盛り上がりでした。私は、トンカツとコーヒーソースを考案しました」

――辛かった審査は何ですか。

「これ以外にも、『日々の生活態度』が重要な審査基準になっています。1週間の大会期間中は毎日、何らかの審査やボランティア活動、パレード、イベントへの出席があります。写真を常に撮られ、大会の様子はテレビで生中継されます。ホテルの部屋にいる時間以外は、ずっとチェックされているので、気を抜けない状態が続きます。そういった意味では、調和を大切にし、礼儀が良く、忍耐強い日本人の強みは生かされたと思います」

病院訪問で、難病を抱える男の子からキスをもらう内田さん。ミスたちは大会期間中、福祉活動も積極的に行う。感情的になり、涙を流すミスも

■フィナーレに「ハポン!」コール

――大会の期間中はどんなことを頑張ったのですか。

「マニサレスやコーヒーの知識をアピールすることが重要です。コーヒーの産地が多い南米諸国の代表はコーヒーの知識に長けています。その中で日本人の私が、どれだけしっかり、コーヒーへのパッションや知識をアピールできるかを意識しました。

私はもともとコーヒー好きで、それがプラスに出ました。大会関係者には『ユリ(内田さんのこと)のコーヒーの知識には驚いた。あなたが優勝したのはコーヒーの知識があったからでは』と言ってもらえました。南米のミスならまだしも、日本のミスがコーヒーの知識が豊富とはコロンビア人には予想外だったようです」

――フィナーレはどんな感じですか。

「フィナーレ(最終日)は、ステージでドレス審査や各国の伝統衣装でのパフォーマンス、質疑応答などがあります。私が登壇すると、『ハポン!ハポン!(日本!日本!)』というコールに包まれました」

――どうやって現地の人のハートを掴んだのですか。

「私もわかりません(笑)。でもマニサレス市長がせっかく招待してくれたので、感謝の気持ちを忘れずに大会に臨みました。写真対応やパレードでの態度など、心を込めて現地の人に接したことが良かったと思います」

――ミスコンによっては、専属の運転手を付けてほしいとか、他のミスよりも高い部屋に泊まらせてほしいとか要求するミスもいると聞きますが。

「(運転手や部屋についてはわかりませんが)ミスコーヒーでは大会の中盤で疲れきっているミスたちもいました。イベント終了後の移動のバスでは弱音をこぼす人もいました。ミスコンは本当に体力勝負なのです」

パレードの合間の様子。左からミス・ポルトガル、内田さん、ミス・ニカラグア、ミス・ハイチ。ミス・ポルトガルは大会中、内田さんのルームメイトで、準グランプリを受賞した

■メイドからの一発逆転

――英語もスペイン語も話せない一般人の内田さんが優勝したことに不満をもつミスはいませんでしたか。

「ミスはみんな、必死で戦っています。バックステージに戻って、ショックで泣き崩れるミスもいます。特に南米諸国はミスコン大国。メジャーな大会で優勝すれば、家族を一生養っていける国もありますから。

ミスコーヒーは世界4大ミスコン(ワールド、ユニバース、インターナショナル、アース)ほどの知名度はありません。ただそれでもモデル業で家族を支えていくために人生を賭けて挑む女性もいます。上流階級の結婚相手を探すため、子どものころから家族のサポートを受けてミスコンに挑戦してきた人もいます。日本人のミスとは意気込みが違います。

この大会のある国のミスは、ミスコンの世界に入る前はメイドとして働いていました。今はモデルとして成功していますが、彼女もまた、生活を賭けて戦っていました」

■ホテル勤務からミスコーヒーへ

――内田さんがミスコーヒーに出場したきっかけを教えてください。

「私は当時(2014年12月)、大阪のホテルで働いていました。過去に出場したミスコンでたまたま知りあった人から、ミスコーヒーの大会の1カ月前にオファーをもらい、出場が急きょ決まったのです。自分の将来について悩んでいた時期でもあったので、今しかできないことに挑戦してみようと決断しました。職場に休みをもらい、急いで大会の準備をしました」

――16年の大会は1月9~18日に開かれます。注目のポイントは。

「コロンビアは今、ミスコン業界で注目の的です。コロンビア代表は、ミスユニバース世界大会で14年優勝、15年も準優勝しました。美女大国コロンビアを舞台するミスコーヒーからも今回、次なるビッグスターが生まれるかもしれません。

今回の日本代表にも注目です。彼女(インタビュアーの冨田七々海)はトライリンガルで、英語、スペイン語、日本語が堪能。難民支援のNPOでも働くなど、人道支援にも意欲的です。日本から日本にクラウンを渡せるのか、とても楽しみです」

各国のミスたち。伝統衣装「マノラ」姿で

コーヒー農園を訪れる内田さん

コーヒー農園を訪れる内田さん

「ナショナルコスチューム」(各国の伝統衣装でのパフォーマンス)審査の舞台裏。内田さんは、阿波踊りの衣装で日本の文化をアピール

「ナショナルコスチューム」(各国の伝統衣装でのパフォーマンス)審査の舞台裏。内田さんは、阿波踊りの衣装で日本の文化をアピール

ミスたちは登山もする

「国際コーヒーの日」の記念式典でテープカットする内田さん

ミスコーヒー2016日本代表の筆者(冨田七々海)

ミスコーヒー2016日本代表の筆者(冨田七々海)