笑えよ 食えよ 踊り狂えよ! 「シンコ・デ・マヨ フェスティバル」は米国発のメキシカンカルチャーだった

場所さえあれば音楽とあわせ、自分のスタイルで踊るのがメキシコ流。大人も子どもも関係ない。ロサンゼルスのオルベラ街で開かれたシンコ・デ・マヨ フェスティバルで撮影場所さえあれば音楽とあわせ、自分のスタイルで踊るのがメキシコ流。大人も子どもも関係ない。ロサンゼルスのオルベラ街で開かれたシンコ・デ・マヨ フェスティバルで撮影

米国ロサンゼルス中心部オルベラ街で5月5日~7日の3日間、メキシコを100%味わえる「シンコ・デ・マヨ フェスティバル」が開かれた。このフェスティバルは、世界最強ともいわれたフランス軍に対して小さなメキシコ軍が奇跡的に圧勝した1862年5月5日の「プエブラの会戦」を祝うもの。本国メキシコではあまり注目されないが、米国ではほぼすべての大都市でこのフェスティバルは行われる。まさに「米国発のメキシカンカルチャー」だ。

■タコス・ワカモレ・ルチャリブレ

オルベラ街に足を踏み入れると、「オラ(やあ)!」と友人との再会に満面の笑みで応える人。男女が手をとり、そこらへんで情熱的に踊る人。大口でタコスにかぶりつく麦わら帽子のおじいちゃん。「サルー(乾杯)」と隣の人と杯を交わし、コロナビールをググっと飲み干す人。オルベラ街はどこを切り取っても幸せのてっぺんだ。「今の瞬間を最大限に楽しむ」メキシコ人らしい祭りだ。

オルベラ街は、東京ドーム4分の1ほどの大きさ。フェスティバルには1日およそ2万人が訪れる。入口付近ではカウボーイの衣装を着て記念撮影ができる。メキシコ系アメリカ人の家族連れや、物珍しさに並ぶアジアからの観光客が列を作る。普段目にしないグレーからライトブルーのグラデーションの衣装を鏡越しに合わせる姿は子ども以上に親が楽しそうだ。

オルベラ街の中央にはメインステージがある。そこでは、つばの広い帽子ソンブレロから靴までを格好よく決め、トランペットやギターで演奏するマリアッチや、真赤なハットに黒いベルベット生地の高級ドレスを着て、メキシコ民謡を豪快に歌い上げるメキシコ人シンガーがいた。ステージの前では音楽と一緒に踊る観客の姿も。

路上には、ロサンゼルスっ子の好物であるタコス、ワカモレ(アボカドやトマトから作ったソース)、メキシコのプロレス「ルチャリブレ」(覆面レスラーが多い)で使うマスク、網で作ったかごやバッグ、コロナビール、スイカジュースを売る店など150軒以上並ぶ。

オルベラ街の駐車場には、中国や韓国などの観光客を乗せた大型バスが次々と入ってくる。異国の中の異国の風景を一眼レフカメラで撮る観光客たち。日本から観光でやってきた30代の男性(会社員)は「メキシコに来た感じ。すごく得した気分」と喜ぶ。

「VIVA MEXICO」(メキシコ万歳)と書かれた国旗が初夏の風になびく。ロサンゼルスのシンコ・デ・マヨ フェスティバルで

「VIVA MEXICO」(メキシコ万歳)と書かれた国旗が初夏の風になびく。ロサンゼルスのシンコ・デ・マヨ フェスティバルで

■起源は「奴隷制」と関係あった

シンコ・デ・マヨ フェスティバルの起源は、「アバウトトラベル」や「タイム」など複数の米国のウェブサイトによると、意外にも、米国の南北戦争(1861~1865年)で「北軍」を勝利に導くため、南カリフォルニアに住むメキシコ系アメリカ人の結束が必要だったことに始まる。白人優位・奴隷制維持の立場をとっていた「南軍」が勝利すれば、南カリフォルニアは“奴隷州”になる恐れがあったからだ。

そうしたなか、「プエブラの会戦」でメキシコ軍が圧勝したという一報が南カリフォルニアに届く。歓喜に沸いたメキシコ系アメリカ人らは「自由と民主主義を勝ちとるため」「メキシコ軍を強化するため」に支援金を集め始める。これがシンコ・デ・マヨ フェスティバルの始まりだ。

メキシコ系アメリカ人のための閉ざされたフェスティバルが一変したのは1980年に入ってから。米国の複数のビール会社がスポンサーとなり「メキシコの文化・伝統、食べ物、お酒を楽しむ場」として、シンコ・デ・マヨ フェスティバルを全米に広めた。今では米国に限らず、カナダ、オーストラリア、南アフリカ、ナイジェリア、日本などに伝播した。

■トランプ大統領はやっぱり欠席

米国で1月にトランプ大統領が誕生してから、米国とメキシコの関係は良好とは言い難いが、メキシコ系アメリカ人を友人にもつ白人の女子大生は「フェスティバルと政治は別もの。今日はステージで友だちが踊るので楽しみ!」と話す。ロサンゼルス郊外に住む日系アメリカ人の男性は「僕はアメリカ国籍をもつ。だからトランプ大統領の国境に壁を作るなどの移民政策の発言はいちいち気にならない。そもそもここは移民の国。恐れているのは不法移民だけじゃないかな」と気にもとめていないようだ。

シンコ・デ・マヨ フェスティバルのリセプション(晩餐会)は2001年以降、ホワイトハウスで開かれる。米国の大統領がスピーチするのが恒例だが、トランプ大統領はこの慣習を破って欠席。代わりにマイク・ペンス副大統領が出席した。

米国には現在、不法移民が1100万人いるといわれる。そのおよそ半分の約600万人がメキシコ人だ。