年間6万人が誘拐されるメキシコ、娘を取り戻すため犯人と闘う母を描いた映画「母の聖戦」が1月20日上映へ

映画「母の聖戦」の主人公シエロ(右)とその娘ラウラ(左)。2人はメキシコ北部でつつましい生活を送っていた

娘を誘拐された母親の戦いを描いたラテンアメリカの映画「母の聖戦」が2023年1月20日から全国の映画館で上映される。ストーリーの舞台は、年間6万件の誘拐事件が起きるとされるメキシコだ。テオドラ・アナ・ミハイ監督(ルーマニア人)は「メキシコの警察は(機能が)麻痺しており、一般市民は泣き寝入りするしかない。多くの人に映画を見てもらい、この現状について議論してほしい」と話す。

100万円を渡しても娘は‥‥

母の聖戦は、メキシコの誘拐ビジネスにスポットをあてた作品。第74回カンヌ国際映画祭に出展され、「ある視点部門」で勇気賞を受賞した。

主人公のシエロはメキシコ北部の町で、十代の娘ラウラと2人暮らし。裕福ではないがつつましい生活を送っていた。だがある日、ラウラが誘拐された。レストランで犯人と対面したシエロは、こう脅迫される。

「娘を返してほしかったら、明日までに15万ペソ(約100万円)と車を用意しろ」

シエロは元夫のグスタボとともに身代金を集め、次の日、犯人に手渡す。だが娘は返ってこない。絶望するシエロは、自身の手で娘を取り戻そうと動き出す。

邦題は「母の聖戦」だが、スペイン語の題名は「La Civil」。一般市民という意味だ。ミハイ監督がこの映画を通して伝えたかったことは、メキシコでは誘拐の被害にあった一般市民はなすすべがないという現実だ。

シエロは警察に相談に行ったが、真剣に取り合ってくれない。それどころか「娘は(犯人の)一味ではないのか」と疑いの目を向けてくる。

近所の人も助けてくれない。ある晩、シエロは自宅で誘拐グループに襲われ、自身の車を燃やされてしまう。だが近所に助けを求めても、誰も出てきてくれない。ホースの水で消火しようとしても焼け石に水。誰にも頼れず、途方に暮れる彼女の姿は、孤立した一般市民の苦しみを物語る。

「警察は汚職や人員不足、誘拐事件が多すぎるといった理由で、機能不全に陥っている。被害者の知り合いも誘拐グループを恐れて助けてくれない。(被害者の家族は)絶望し、苦しんでいる」(ミハイ監督)

メキシコの2020年の誘拐件数は826件。だが届け出をしているのは全体のたった1.4%といわれ、実際は6万件ほどと推測される。

被害者の家族は、堕落した警察が誘拐グループとつながっていることを知っている。警察に相談しても犯人から報復を受けるだけ。誰にも頼ることができない。

元夫のグスタボと一緒にラウラを探すシエロ

元夫のグスタボと一緒にラウラを探すシエロ

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