「イランは核合意を順守しているのに制裁解除は不十分」、イラン外務次官が訴え

???????????????????????????????都内で講演するイランのセイエッド・アッバス・アラグチ外務次官

イランのセイエッド・アッバス・アラグチ外務事務次官は8月8日、都内で講演し、イランの核開発を制限する「核合意」(2015年)の後の状況について「イランは核合意を完全に順守している。だが経済制裁解除の効果はまだ不十分だ」と述べた。

■ミサイル開発は違反ではない

アラグチ外務次官は、米国などが問題視するイランのミサイル開発について「ミサイルは正当な防衛システム。抑止手段として中東地域の安全保障にも役立っている。核弾頭を搭載する設計にはなっていない。だから核合意には違反していない。IAEA(国際原子力機関)は7回、米国は2回、イランが違反していないことを認めた」と強調する。

イランに対する経済制裁を欧米諸国が解除したことから、イラン経済は部分的には改善した。アラグチ事務次官も「イランの石油輸出は増えた。それに伴い、経済成長率は2012年のマイナス6.6%から2016年には6.5%まで回復した」と効果を認める。

しかし、米国のトランプ政権のイラク敵視による心理的影響もあって、投資銀行の動きなどがまだ回復していない。アラグチ事務次官は「米国は核合意による平和的な雰囲気を壊そうとしているのではないか」と批判する。トランプ政権は2017年7月、イランは核合意を順守していると判断したが、一方で核合意自体を破棄しようという動きもある。

■紛争は軍事力で解決できない

核合意とは、イランがウランの濃縮活動の大幅な制限と国内軍事施設の査察を受け入れ、その見返りとして欧米諸国が2006年以来のイランに対する経済制裁を解除するというもの。2015年7月にイランと6カ国(米国、英国、フランス、中国、ロシア、ドイツ)との間で締結した。正式名称は「包括的合同行動計画(JCPOA)」という。

アラグチ外務次官は核合意の交渉でイラン側の首席交渉官を務めた。「米国がウランの濃縮を一切認めないという態度から、原子力の平和利用を目的とした濃縮の権利を認めるように変化したところから交渉は始まった。イランも平和的な目的のためだけに濃縮を行うことを受け入れた。両サイドとも、お互いに歩み寄るウィンウィンのアプローチを取ったことで、紛争なしに平和的に解決できた」と振り返る。

イエメン、シリア、バーレーンなどで起きている紛争・外交問題についてもアラグチ外務次官は「対テロリストの問題以外は、軍事力ではなく対話と協力による解決を目指すべき」と主張する。

■イランはイスラム式民主主義

アラグチ外務次官はまた、2017年5月に実施されたイランの大統領選挙にも言及。「イランの民主主義は、欧米や日本の民主主義とは違うイスラム民主主義。イランはイスラムの価値観と民主主義の共存に成功している」と述べた。

イランの大統領選挙と国会議員選挙では、立候補の資格の有無を監督者評議会で審査する。審査基準が明確でないことや、監督者評議会のメンバーが選挙で選ばれるわけではないことが、民主主義的でないと批判されることがある。

「今回の大統領選挙の投票率は73%、国民は投票所で長蛇の列をなし、何時間も待って投票した。それは、投票することで政治を変えられると国民が信じているからだ。イランの国の力の源泉は、軍事力ではなく民主主義にある」。アラグチ外務次官はイランが民主国家であることを強調した。

アラグチ外務次官は2007~11年に駐日イラン大使を務めた。イラン外務省アジア太平洋局副局長を経て、2013年9月に外務次官に就いた。今回は笹川平和財団の招待で来日した。