【yahman! ジャマイカ協力隊(8)】「銃声」が響くクリスマスシーズン、そこにガンジャの陰を見る

jamaica121220事件現場となった場所。当日は、タクシーの運転手も、職場の同僚も、「安全」なポートランドでの痛ましい事件の話で持ちきりだった

南国ジャマイカにもクリスマスシーズンがやってきた。きらびやかなクリスマスツリーで街は飾られ、サンタクロースからのプレゼントを待つ子どものように心が弾む半面、楽しく明るい話ばかりではないなと実感する出来事が起きた。

私が暮らすジャマイカ東部のポートアントニオで12月10日、発砲事件が発生したのだ。現場は、私が毎日のように通る場所。発生時刻も午前10時過ぎ、と人通りが多い時間帯だった。タイミングを一歩間違えれば自分も撃たれ、命を落としていたかもしれないと考えるとゾッとした。

地元紙オブザーバーによると、この事件に巻き込まれたのは、中年のジャマイカ人2人、8歳の少年、警官1人の4人。加害者は首都キングストンの病院に運ばれる最中に死んだ。

ジャマイカも、他のキリスト教圏の途上国と同様、11月末から年末にかけてのクリスマスシーズンには犯罪が増える。ターゲットになりやすいのが、ふだんは海外で働き、クリスマスを家族と一緒に過ごそうと里帰りするジャマイカ人たちだ。ジャマイカで一番犯罪率が低いといわれる、ポートアントニオのあるポートランド州も例外ではないんだ、と私は悟った。

ジャマイカでは2011年、政府発表によると1125人が殺害されたという。面積は秋田県とほぼ同じ、人口は約270万というこの小さな国で、だ。発生率で比べると、殺人でジャマイカは日本の40倍(ジャマイカでは人口10万人当たり41.67人が殺される)、強盗は60倍というから、治安の悪さは折り紙つきだ。

犯罪で使われる代表的な凶器は、いわずと知れた「銃」。ジャマイカで出回る銃の多くはアメリカで購入され、持ち込まれたとされる。これには麻薬ビジネスと深い関係がある。

ガンジャ(マリファナ)はジャマイカの象徴だ。UCCのコーヒーブランドにもなっているブルーマウンテンのどこかに広大なガンジャ畑があるという。ガンジャをモチーフにしたTシャツも土産物としてよく売られ、街に出れば必ずガンジャの煙に出くわす。

ジャマイカの法律は、ガンジャの所持・使用・密輸などを、日本とほぼ同じレベルで禁止している。違反すれば逮捕され、懲役刑が科されることもある。にもかかわらず、警察官でさえガンジャを「文化」として許容している始末で、取り締まりは甘い。

麻薬ビジネスが興隆する背景にあるのが、世界一といわれる、ジャマイカ産ガンジャのクオリティの高さだ。世界中のガンジャスモーカーからの引きが強く、ジャマイカのガンジャを売買すれば簡単に儲けられるという。

ジャマイカでは、ガンジャは1ポンド(約0.45キログラム)4000~6000ジャマイカドル(3600~5400円)で売られている。ところが海を渡ると値段はおよそ40倍に跳ね上がり、アメリカのフロリダで1800米ドル(約15万円)、ニューヨークでは2500米ドル(約20万円)の値が付く。

ジャマイカ人はアメリカでガンジャを売り、そのお金で銃を買う。それをジャマイカに持ち込み、ジャマイカ人に売りさばく。

ガンジャ、銃、そして殺人。ポートアントニオの発砲事件のように、ガンジャが、罪のない一般人を傷つけ、楽しいはずのクリスマスに陰を落としているとしたら……。クリスマスは誰にとっても明るく幸せな日であってほしいと心から願う。(原彩子)