【yahman!ジャマイカ協力隊(17)】本当の貧しさはどこにあるのか? 外国人を狙った犯罪から考える

ポートアントニオの中心地に位置するローズの店。付け毛や化粧品を求めるジャマイカ人女性でいつも賑わうポートアントニオの中心地に位置するローズの店。付け毛や化粧品を求めるジャマイカ人女性でいつも賑わう

■フィリピン人宅へ泥棒入る

「昨晩、私の家で何が起きたと思う?」

ジャマイカ東部のポートアントニオで、いつものようにオフィスからの帰り道、この町で商売を営むフィリピン出身の友人ローズの店に雑談に立ち寄ると、沈んだ顔の彼女がこう話し始めた。

ローズは前の日の夜8時ごろ、店を閉めて、親せきと一緒に帰宅したところ、自宅に空き巣が入っていたという。泥棒は、番犬に毒入りのえさを与えた後、勝手口の鍵を壊し、扉をこじ開けて侵入したようだ。すべての部屋を漁った跡があり、戸棚、かばん、ベッドの下のトランクまでごていねいにこじ開け、金目のものだけを奪った。ノートパソコン、タブレット、スマートフォン、時計、貴金属類などはすべて消えていた。

不幸中の幸いというべきか、人的な被害はなかった。外出している隙を狙われたためだが、もし家に誰かいたら泥棒と鉢合わせし、命を奪われていたかもしれない。ローズは、被害に遭った家の中の写真を見せてくれながら、「家に帰るのが怖い。ひとりで家にいたくない」と不安を口にした。

ジャマイカ歴が長い彼女のおばの話によれば、空き巣に入られたのは今回が3度目。前回は1年半前だったとのことだが、「犯人は同じに違いない」と断言する。

■誰にとって「最高の国」か

実は、ポートアントニオ(ポートランド州)はジャマイカの中で一番治安が良いといわれる場所だ。美しい自然に囲まれていることから、多くの外国人も住む。中国人がビジネスを営んでいるのはもちろん、医師や教師として働くキューバ人や、カフェを経営するドイツ人もいる。ホテルや土地を所有する白人も少なくない。

私の友人のローズは一族で、ポートアントニオに3軒の店を構え、アクセサリー、服、化粧品、かつら、付け毛、雑貨などを販売している。「フィリピンでは仕事がなく、生活するにも満足な給料を稼げない。だから出稼ぎにきた」と言う。

彼女と私は出身国も母国語も違う。ただこの国ではアジア系は一緒くたに「ミス・チン」(アジア人女性を意味する呼称)と呼ばれる。ジャマイカ人は常に“私たち”を「外国人扱い」し、もっといえば「よそ者扱い」することをやめてくれない。

ジャマイカでは、美術館や観光施設の入場料が、観光客と居住者で3倍以上違うことがある。また、観光地として有名なモンテゴベイは、ジャマイカ人にとっては物価も国内の他の場所に比べて安く暮らしやすいといわれるが、私にとっては逆だ。「外国人=観光客=裕福」と思われ、タクシーに乗る時も、通常料金の何倍もの料金をふっかけられる。外国人は「よそ者」という思い込みが強いから、そういうことが平気でできるのではないだろうか。

「ジャマイカは最高の国だ。人は明るいし、親切。これ以上の国はない。もちろん、この国に今後も住みたいだろう?」

空き巣のことを聞いた後、私は、ジャマイカ人が常に発するこの台詞を思い出した。自信満々に言われるのでいつもは答えに窮してしまうのだが、私はついに明確な回答を見つけ、思わず口に出していた。

「ジャマイカは最高の国なんかじゃない。少なくとも私たち外国人にとってはね……」。ローズは黙ってうなずいていた。

■ジャマイカに援助は必要か

ジャマイカ人がフィリピン人宅に盗みに入る、という構図は私にとって奇妙な印象を残した。というのも、日本からみれば、フィリピンもジャマイカも途上国。どちらの国にも、私のような青年海外協力隊員が活動している。

フィリピン人は国内で稼げないから海外で働き、お金を蓄える。そのお金をジャマイカ人が盗む。どちらがより貧しいのだろう。政府開発援助(ODA)を受ける両国が、食いぶちを奪い合っているように感じてしまうのは、私が先進国の人間だからだろうか。

実は、両国には共通点がある。いずれも「出稼ぎ立国」で、外貨収入が国家の主な収入源になっていることだ。ジャマイカの国民は260万人ほどだが、それとは別におよそ200万人が海外で働いているという。

私の周りを見回しても、兄弟や親せきの海外送金に頼って生活しているジャマイカ人は多い。そんな彼らが、外国人に対して「裕福」とのイメージを抱くのは仕方がない。そうした心情が、外国人をターゲットにした犯罪を駆り立てるのだろう。

ジャマイカでの生活が1年半を過ぎても、なかなか消えることのない居心地の悪さ。それはなぜか。肌の色が目立つからか。いや、違う。

ジャマイカ人が私を見る時には「期待と欲望」が見え隠れする。わかりやすくいうと「君は美しい、結婚したい」と一言目に口に出すジャマイカ人からは、その褒め言葉の裏に、「ミス・チン」と結婚すれば、金持ちになれる、海外に出られる、今のステータスから抜け出せるといった欲がある。

だが私は、こうした言動は金銭的な貧しさだけからくるものではないと思う。ジャマイカに、日本が援助しなければいけないほどの貧しさはあるのだろうか。今回の空き巣事件で垣間見えたのは、他力本願で生きているジャマイカ人の心の奥底にある貧しさというか、外国人を自らの目的のために利用しようとする利己的な心だった。

 

原 彩子(はら・あやこ)
ジャマイカ・ポートアントニオ(ポートランド州)で活動する青年海外協力隊員(職種:環境教育)。埼玉県出身。日大芸術学部卒。在学中は、フィリピンの児童養護施設を運営するNPO「CFF」で奨学金支援チームのメンバーとして活躍。電機メーカーに3年半勤務した後、2012年2月から、ジャマイカの農業NGO「ジャマイカ4-Hクラブ」ポートランド事務所で活動中。