JICAのプロサバンナ事業を船田クラーセンさやか准教授が批判、「小農から土地を奪う」

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アフリカ南東部に位置するモザンビークで、熱帯サバンナを一大農地に変えようとする巨大プロジェクトが動いている。プロジェクトの名称は「プロサバンナ」。援助するのは、日本とブラジルの両政府。資金源は政府開発援助(ODA)だ。このプロジェクトの是非を巡ってはかねて、賛成派・日本政府と反対派・NGOの間で意見が大きく割れてきた。

「日本の援助はいまアフリカで何をしているのか? プロサバンナ事業から考えるODA」と題した講演会が3月30日、大阪市内の関西学院大学大阪梅田キャンパスで開かれた。講演した東京外国語大学大学院の船田クラーセンさやか准教授は「プロサバンナは、モザンビークの小農の主権を完全に無視している」と強く批判した。

■目的は「ブラジルの失業対策」

船田准教授が問題視するポイントは3つある。

1つめは、日本政府の主張が事実と矛盾していることだ。外務省と国際協力機構(JICA)は、プロサバンナを「三角協力(南南協力の一種で、先進国が、比較的進んだ途上国と共同で、他の途上国を支援すること)の有効な事例」として積極的に広報している。しかし元をたどれば、プロサバンナは、日本とブラジルの連携強化を目指し、二国間パートナーシップとして始まった事業だという。

「モザンビークは、対象として『後から浮上した』にすぎない。三角協力というより、日本とブラジルの二国間外交の産物だ」と船田准教授は指摘する。

プロジェクトの対象地としてなぜ、モザンビークが選ばれたのか。その背景には、アフリカで近年激化する、外資企業による土地・水資源の争奪戦がある。食料価格が2007年に世界的に高騰してから、降雨量も多いアフリカの熱帯サバンナは世界の投資家にとって投機対象となっている。

「とりわけモザンビークは、環境規制が甘く、また権威主義的な政府であるため、土地の所得も簡単」と船田准教授は説明する。オンラインデータベース「ランドマトリックス」によると、2012年の同国の土地の取引件数・面積(報告ベース)は世界で2位だった。

モザンビークの土地に目を付けたのがブラジル政府。ブラジルではこのところ、環境法規が相次いで導入され、これまでのように森林を伐採することが困難になっている。広大な農業用地を確保できないこともあって、若者へ就業機会を提供できないという現状がある。

そこで打開策としてブラジル政府が考案したのが、豊富な土地と水をもち、同じポルトガル語圏であるモザンビークを、無職の若者の「就職先」にすること。この事実を裏付けるように、ブラジルの邦字紙は、日系ブラジル人の連邦議員が「ブラジル人のモザンビークへの入植を応援する」とコメントする記事を掲載した。

■セラード開拓は成功例なのか?

2つめのポイントは、プロサバンナに伴って、小農の土地が収奪されることだ。モザンビークでは、外資企業による土地収奪がひどく、地元の小農は生業を奪われ、生活ができない状況に追い込まれている。

モザンビークでは土地のほぼすべてが国有地だ。このため政府が合意さえすれば、小農の意思とは関係なく、土地が売られるという。

「(ブラジル中部)のセラード地域(サバンナ。総面積は日本の国土の5.5倍)でもかつて、同じ悲劇があった」(船田准教授)。日本、ブラジル両政府は1979~2001年、セラードを南半球最大の農業地帯へと切り開いた。これは「セラード農業開発協力事業」(プロデセール)と呼ばれ、南南協力の成功例としてJICAは大々的にPRしている。

ところが、ブラジルを農業大国に押し上げたその陰で、数千人の先住民が土地を奪われた事実はあまり知られていない。セラードではその後、農民らが土地闘争を展開したが、当時の軍事独裁政権は彼らの訴えを無視した。

「日本政府は事実を語らない。セラード開発を“成功事例”として、プロサバンナのお手本にまでしようとしている」(船田准教授)

モザンビークでは2012年10月、同国最大の農民組織「全国農民連盟」(UNAC)がプロサバンナへ抗議する声明を出した。このなかで「ブラジル企業による土地収奪の可能性があること」と「すべてのプロセスで農民の主権を無視していること」の2点を強く懸念した。

だが船田准教授によれば、これに対するJICAの回答は「情報伝達不足による誤解」というものだったという。

■現地のニーズを反映しない

3つめは、日本政府は過去の教訓から学ばず、いまだに現地のニーズを反映していない開発援助を続けていることだ。

船田准教授が2002年から現在も継続中のモザンビーク人への聞き取り調査では、日本の援助は「モノの供与に偏っている」、「現場にはほとんど来ない」、「たとえ来たとしても短時間で去る」、「継続性がない」などの声が聞かれる。

「モザンビークへの日本の援助は実際、2000年以前は、食料増産の援助が大半を占め、その大部分が農薬の供与だった。農薬は、談合で入札した商社と日本政府が随時契約し、200億円を超える額の農薬が供与された。だが農薬は使われず、倉庫に山積み状態。これは、現地のニーズを無視した『日本の商社のビジネスを支援するための援助』だった。日本政府はこの教訓から学ぶどころか、今度はプロサバンナを進めようとしている」

船田准教授はこう強く訴える。