フィリピンで存在感増す新興宗教「イグレシア・ニ・クリスト」、信者200万人以上・教会5000堂

0814清水さんP1100789マニラ首都圏のバクラランに建つイグレシア・ニ・クリストの教会

「あ、ここにもイグレシア・ニ・クリスト(INC)がある」。フィリピン・マニラのデラサール大学に留学して3カ月、私は日々、カトリックの国フィリピンで、新興宗教INCのプレゼンスの大きさに驚かされている。

INCとは、フィリピン生まれのキリスト教。直訳すると「キリストの教会」という意味だ。城のような荘厳な教会を建てるのが特徴で、その前で記念撮影する外国人観光客も多い。

スペインの植民地支配を300年以上にわたって受けたフィリピンは、その影響から、いまも人口の8割がカトリック教徒だ。イエズス会や神言会などカトリック系の学校も数多くあり、教育との結びつきも強い。また日曜日の朝はミサを捧げる信者でカトリック教会はあふれかえる。カトリックとフィリピンは切っても切れない関係にある。

そんなフィリピンで生まれた新興宗教に私は興味をもった。デラサール大学のクラスメートに「フィリピンはカトリック国だから、やっぱりINCの信者はあんまりいないのかな?」と尋ねてみると、カトリック教徒であるカルロスさんは首を大きく横に振った。「そんなことはないよ。フィリピン中にINCの教会はあるし、ものすごい数の人がカトリックから改宗している!」

調べてみると、INCは思ったより古く、2014年に創立100周年を迎えるという。信者の数は200万人以上。ざっくり言ってフィリピン人の45人に1人はINCの信者という計算になる。

驚かされるのは、信者は、フィリピン国内にとどまらないことだ。INCによれば、アメリカやアフリカ、日本など110カ国に信者は住んでいる。ここまで信仰が広がった理由のひとつには国際結婚がある。INCの教義では、夫婦は同じ宗教を信仰しなければならないからだ。

仮に日本人男性がある日、フィリピーナ(フィリピン人女性)と恋に落ちたとする。その女性がもし「私、INCの信者なの」と告白したら、男性は改宗しない限り、彼女と一緒になれない。こうした形で国際結婚をし、INCの信者になった日本人男性も少なくないと聞く。

もうひとつの疑問、INCの教会はなぜ妙に豪華なのか、についても私は尋ねてみた。するとカルロスさんは「INCの信者は、収入の10%を寄付するんだよ。信者はこれを守らないといけない」とのこと。キリスト教では一般的に「収入の10%を寄付する」とされるが、この教えはカトリックなどでは厳格ではない。だがINCは厳しく、これが大きな収入源になっている。INCの教会はフィリピン国内に少なくとも5000は建つといわれる。

2013年はアセアントップの国内総生産(GDP)成長率を記録したフィリピン。好調な経済を背景にINCは今後も、多額の寄付を集め続けるだろう。そうなると、単なる新興宗教の枠を超え、経済や政治に対する勢力も増していくのでは、と私は想像する。

カトリックの国フィリピンではこれまで、カトリックの枢機卿が大きな影響力を保持してきた。だがひょっとすると10年後には、INCは、フィリピンの政治・経済・社会にとって無視できない存在になっているかもしれない、とふと思った。(マニラ=清水正夫)