「サッカーで青少年を非行から守りたい!」、ジンバブエのサッカー監督が故郷に帰った訳

1107坂本さん、②クレメント氏 (1)プロのサッカー監督の座を捨て、故郷に帰ったクレメント・チミンバさん。ジンバブエ・マココバのグランドで

ジンバブエ第2の都市ブラワヨで、サッカーを通じて、青少年の犯罪を減らそうと挑戦する男がいる。クレメント・チミンバさん(47)だ。クレメントさんはブラワヨ出身のプロのサッカー監督。ジンバブエやボツワナでプロチームを率い、名将として知られる。

2009年にボツワナから故郷へ一時帰国した際、クレメントさんは、何をするわけでもなく昼間からたむろする地元の若者たちの変わり果てた姿に驚いた。「サッカーをさせれば、若者たちに希望を与えられるかもしれない」と思ったという。

クレメントさんはさっそく、サッカーチームの設立を目指し、スポンサー集めに駆けずり回った。だがスポンサーは見つからなかった。このため、自身の資金と、若者をどうにかしてほしいという住民の寄付金100ドル(約1万2000円)を元手に2010年3月、企業のスポンサー抜きでサッカーチーム「リアルスターズ」を立ち上げた。当時務めていたボツワナのプロリーグの監督を辞め、ブラワヨの青少年たちにサッカーを教えることにしたのだ。報酬はゼロになった。

現在は、地元の高校で週に3日1時間程度、サッカーを指導して月に200ドル(約2万4000円)を稼ぐ。それでも収入はかつての5分の1だ。

「私は若者に希望や夢をもってもらいたい。手段は何でもいい。サッカーのおかげで私は若いころから貧しくても夢をもてた。だから私の人生は輝いていた。サッカーを通して夢・希望をもつ素晴らしさを伝えたい」

リアルスターズには10~18歳の青少年50人が所属する。年齢別に4チームを作っている。設立当初のメンバーはスリや薬物に手を染めた非行少年3人。「最初はスポーツをする楽しさを伝えた。規則正しい生活を送れるよう、子どもの家庭にも頻繁に顔を出し、親とのコミュニケーションをとった」

チームの練習は午前6~8時と、学校が終わった後の午後4~6時の合計4時間。休みは月曜日のみ。試合は土曜日。「たくさん練習すれば子どもたちは疲れ、夜遊びに行く元気がなくなる」。クレメントさん自身も、子どもの見本になるよう酒とたばこを断った。

リアルスターズU-18の選手たち。試合前の集合写真

リアルスターズU-18の選手たち。試合前の集合写真

リアルスターズはいまや、アマチュア強豪チームとなった。ブラワヨ2部リーグで首位を走り、2016年の昇格が確実視されている。試合には多くの地元の人が応援に駆け付け、街は盛り上がる。

地元の警官は「リアルスターズができてから、ブラワヨでも治安が悪いマココバ地区の青少年の犯罪は2割ぐらい減った。それ以前は、ドラッグの密売やレイプが横行していて、地元の人も行くのを躊躇する場所だった」と話す。

「私の目標は、マココバで育った若者に生きていく力をつけさせること。お金を持っている、いないにかかわらず人を騙さず、人に信用される人間になってもらいたい」。サッカー教育のゴールについてクレメントさんはこう熱く語った。