日本のNGO「PALETTE」が貧しいフィリピン人を英語教師に育成、生徒は日本人留学生!

0523廣瀬くん、IMG_7461パレットスクールの英語教師を目指してトレーニングを受ける貧困層の若者たち(フィリピン・ブラカン州)

フィリピン・ルソン島中部のブラカン州アンガット(マニラから車で約2時間)に、貧困地区出身のフィリピン人の若者が英語教師として活躍する語学学校がある。「PALETTE SCHOOL(パレットスクール)」だ。英語を教わるのは日本人留学生。運営するNGO「PALETTE(パレット)」の倉辻悠平代表は「生まれた環境にかかわらず、自分の未来を自分で選択できる環境を作りたい」と言う。

貧しくても夢を諦めなくていい――。この考えを具現化しようとパレットが始めたのが、英語教師を育成するプロジェクトだ。背景にあるのは、貧しい若者は限られた仕事にしか就けない現状。「サリサリストア(日用品や食料品を軒先で売る小さな店)の経営や、トライシクル(三輪車のタクシー)やジプニー(小型のバス)のドライバーとして働く人が多い」と倉辻さんは言う。

教師はもともと、フィリピンの子どもたちから人気が高い職業だ。パレットがアンガットで16歳の男女198人を対象に「将来の夢は何?」とアンケート調査したところ、教師と答えたのは50人と、会社員の67人に次ぐ2位だった。

英語教師を育てるためにパレットがとる最初のアクションは、貧困地区で暮らす18~24歳の男女を対象に志望者を募ること。その後、筆記テストと面接を実施する。パレットが特に重視するのは、若者がもつ将来のビジョンだ。「仕事がないから仕方なく、ではなく、教師にこだわる若者や、貧しいながらも将来を諦めていない若者を選ぶ」と倉辻さんは話す。

筆記テストと面接に合格した若者には約3カ月、「プロ」のフィリピン人英語教師がトレーニングを実施する。内容は、英語の文法から指導技術までで、1日8時間みっちり。終了後の卒業テストで合格基準に達せば、パレットスクールの教師になれる。基準のひとつがTOEIC850点以上だ。

これまでにトレーニングを受けた10人のうち7人がTOEICの基準スコアをクリアした。3カ月で720点から920点までアップさせた強者もいる。

5月に教師として採用されたケン・サンバンガヤンさんは「フィリピン人の多くは文法が苦手。僕もそうだった。でもパレットのお陰でスコアが伸びた」と話す。倉辻さんは「できる、できないは家庭環境や学歴に関係ないことが証明できた」と喜びを噛みしめる。

パレットスクールには現在、男性3人、女性1人の貧困地区出身者が英語教師として働く。出身地は、マニラのトンドをはじめとする貧困地区だ。パレットスクールで働く大卒の英語教師とともに、日本人留学生に英語を教える。月収は約1万2000ペソ(約2万8700円)。ケン・サンガンバヤンさんは「授業をしているときがとても楽しい。これからも頑張りたい」と意欲満々だ。

ただパレットにとって経営面の悩みは尽きない。貧困層出身の教師が、家庭の事情で1週間にわたって無断欠勤したことがあった。

「フィリピンでは家族を最優先する。また仕事とプライベートの切り替えもはっきりしないなど、日本の価値観と異なる部分も多い。繊細で自信をもてない性格の若者も多い気がする。なので、頭ごなしに怒るのではなく、教師の気持ちと向き合うことが大切」(パレット・フィリピン代表の西村知晃さん)

貧困地区から英語教師を出してきたパレットだが、教師の育成だけがゴールではない。倉辻さんは「英語教師として採用した若者には、ロールモデルとして、次の世代のお手本になってほしい。誰もが平等に自由な未来を選択できるようにするために、“貧困層には無理だ”という社会の価値観を変えていきたい」と語る。