ケニアの「ヒカリ音楽学校」がコロナ禍で経営難に、オンラインレッスンで日本人生徒を募集中

ヒカリ音楽学校は、ケニアのナクルにある教会の一角を間借りしてスタートした。学校名は「地域のヒカリになりたい」との思いを込めたもの。写真右から2番目が板倉由佳さんヒカリ音楽学校は、ケニアのナクルにある教会の一角を間借りしてスタートした。学校名は「地域のヒカリになりたい」との思いを込めたもの。写真右から2番目が板倉由佳さん

新型コロナウイルス感染症のあおりで経営がピンチになったため、日本を含む世界中の人たちを対象にオンラインレッスンを提供し始めた音楽学校がある。ケニア第4の都市ナクルで2012年に開校した「ヒカリ音楽学校」だ。ケニア人の夫と一緒にヒカリ音楽学校を経営する板倉由佳さんは「(ヒカリなら)日本の半額の料金で個人レッスンを受けられる。コロナ禍で自宅待機になった若いケニア人講師の収入にもなる」と語る。

■個人レッスンで1時間2500円

オンラインレッスンでは、ウェブ会議システムZoomを使い、ケニア人講師と生徒をつなぐ。

ヒカリ音楽学校の特徴は、多彩なレッスン内容だ。習える楽器は17種類。板倉さんのおすすめは、ピアノ、バイオリン、ギター、ドラム、ウクレレだ。楽器以外にも、歌や作詞、編曲技術、音楽理論といった専門的なレッスンも受けられる。講師とは英語でやりとりする。

料金は、日本人を含む外国人の個人レッスンで1時間2500円。板倉さんは「日本の音楽学校で個人レッスンを1時間頼めば5000円はかかる。ヒカリなら、その半額で、ABSRM(英国王立音楽検定)やLCM(ロンドン音楽院が主催する検定)に対応した8段階のレッスンを提供できる」とアピールする。

ちなみにケニア人のレッスン料金は、外国人のおよそ半分だ。30分で800シリング(約770円)、45分で1000シリング(約1040円)、60分だと1200シリング(約1150円)。「高い値段だと、庶民はレッスンを受けられなくなる。外国人よりも安く設定しないといけない」(板倉さん)

オンラインレッスンの生徒は現時点で45~50人だ。半分以上を占めるのはケニア人(海外在住者を含む)で約30人。板倉さん夫婦がかつて働いていたケニアのインターナショナルスクールの教え子のつてで受講するようになった生徒が多い。

日本人は2番目に多い約15人。板倉さんの友人や生徒の知り合いがほとんどだという。これ以外にも、スペイン、ベルギー、シンガポール、米国、英国、オーストラリア、インドなどから受講する生徒もいる。

■カメラに映すのは顔より指

オンラインの個人レッスンでは工夫が不可欠だ。楽器のレッスンでカメラに映すのは、講師の顔ではなく指。ピアノのレッスンを受ける場合、講師は生徒と会話するときはピアノの上にカメラを置いて自分の顔を映すが、弾くときはカメラの角度を下に向ける。鍵盤全体が見えるので、ピアノを弾く講師の指の動きが完璧にわかる。

歌のレッスンでも、画面越しの生徒への気遣いは怠らない。ケニア人講師がスワヒリ語の歌を1フレーズずつ歌うたびに、生徒はテンポやリズムを耳で覚えて真似る。講師が歌詞のイントネーションや発音を確認。歌う速さを徐々に上げて練習することで、生徒も講師のスピードについていけるようになるという。

4月末から始めたZoomでの指導は、ケニア人の講師にとって初めてのこと。「講師は最初、時間より少し早めにZoomに入って生徒を待つとか、Zoomの画面共有の機能を使って楽譜を生徒とシェアする方法を事前に確認しておく、といったことをしてくれなかった。やり方を急いで教えた」(板倉さん)

■20代しか雇わない

ヒカリ音楽学校の講師は、板倉さん夫婦、20~27歳のケニア人6人(男性3人、女性3人)の合計8人だ。6人は、ゴスペル歌手をめざす人、教会音楽を演奏する人、子どもに音楽を教えることに興味がある人など。6人とも将来は音楽の仕事がしたいという。

板倉さん夫婦が、20代の講師を好む理由は主に2つある。

ひとつは、一緒に働きやすいかどうかだ。「30代になると、音楽関係の仕事をすでにしている場合が多く、自分のやり方にこだわりがち。職場のルールや指導の際のアドバイスにもなかなか従ってくれない。オンラインレッスンなど新しいことにも柔軟に対応できないと、音楽講師としての伸びしろは小さい」(板倉さん)

もうひとつは、20代の若者に働き口を与えるためだ。日本のような、新卒一括採用の制度がないケニアでは、若者は大学を卒業したら自力で仕事を見つけなければいけない。職にありつけない若者は路上で暇を持て余している。「ヒカリで働きながら、もっと良い給料の仕事を見つけたり、音楽の指導者を目指してもらえたりしたら嬉しい」と板倉さんは語る。

ギターのオンラインレッスンをしているところ。講師は指の動きをカメラに映して弾き方を指導する。世界9カ国から生徒がレッスンを受ける

ギターのオンラインレッスンをしているところ。講師は指の動きをカメラに映して弾き方を指導する。世界9カ国から生徒がレッスンを受ける