「自分を売ったいとこ」にインド人女性が裁判でリベンジ! NGO「かものはしプロジェクト」もITで支援

0627井上さん、写真1インドには100万人近い18歳未満の人身売買被害者がいるという。写真の女性は、実際の被害者とは異なる(かものはしプロジェクト提供)

インド東部の西ベンガル州で、売春宿にかつて売られた女性が、自分を騙したいとこを裁判で訴えた。この裁判にITの側面から協力しているのが、児童買春の根絶を目指して活動する日本のNGO「かものはしプロジェクト」(東京・渋谷)だ。同団体の村田早耶香共同代表は「売人が処罰される事例を増やしていきたい。それが児童買春の抑止力につながる」と意義を語る。

リベンジ裁判を進めている女性の名前はサリナ(仮名)さん(26)。3食を満足に食べられない貧しい家庭で育ったため、17歳のとき、家族を助けるために働くことを決意した。同じ村に住むいとこに「良い仕事を紹介してあげる」と言われ、家に行ったところ、睡眠薬が入った飲み物を飲まされた。眠っている間にインド西部のマハラシュト州ブネの売春宿に売られた。サリナさんはそこで狭い部屋に閉じ込められ、連日、性行為を強要されたという。逃げようとすると売春宿のオーナーから虐待を受けた。

売られてから4年後の2010年、現地のNGO「レスキューファンデーション」と地元警察の介入で、サリナさんは売春宿から助け出された。21歳になっていた。傷心のうちに故郷の村に帰ったが、さらなる苦難が彼女を襲った。「汚れた女」と村人から罵られ、のけ者にされたのだ。勇気を振り絞っていとこを訴えようとしたが、資金はない。逆に激しい嫌がらせを受け、飼っていたひよこを殺されたこともあった。外出もままならなくなった。

絶望していたサリナさんに、次に救いの手を差し伸べたのは、心的外傷回復プログラムを提供する現地NGOの「サンジョグ」だ。ゆっくりと生きる力を取り戻したサリナさんは23歳のとき、サンジョグのマイクロファイナンス(担保なしで、少額を借りられる仕組み)の助けを借りて雑貨屋を始めた。収入も得て、自分の生き方を自分で決められる精神的・経済的な力を手に入れた。

サリナさんは言う。「私にはもう未来がないと思っていた。でもたくさんの人に助けられ、生きる力をもらった。だから裁判で、私を売ったいとこと戦って、自分と同じ被害にあう子どもたちが起きないようにしたいの」。サリナさんは被害にあってから9年後、ついに現地NGO「GGBK」の協力を得て、自分の人生を奪った根源であるいとこを訴えた。そして1年が経過したいま、加害者側弁護士からの執拗な尋問にも勇気を持って対応し、ついに証人喚問のプロセスをすべて終えた。あとは結審を待つばかりだ。

日本のかものはしプロジェクトも、サリナさんのリベンジ裁判に全面協力する。複数の現地のNGOをつなぎ、被害者の情報を共有し、連携することができるようITを使った管理ツールを提供している。以前は、複数の現地NGOが被害者の救出、心的外傷の回復、警察での調書作成など、課題に別々に取り組んでいたため、効果的な追訴ができなかったからだ。また、裁判にかかる費用の援助もしている。

「南アジアでは、人身売買の罪を犯しても、有罪判決を受ける売人は100人に1人程度しかない。被害者の孤立や警察の怠慢が背景にある。罰せらなければ、人身売買は売人にとっては儲かる商売」(村田共同代表)

インドにはいま300万人近い人身売買被害者がいる。その3人に1人は18歳未満だ。売春婦にされる被害者も少なくない。児童買春を取り締まる法律があるため、売人は刑罰を受けるはず。しかし警察は貧しい少女を相手にまともに動いてくれない。証言のみが証拠である裁判で、少女たちは精神的外傷のため証言する勇気を持てないのが実情だ。

被害を受けた女性たちが、加害者を訴え処罰していくことが、児童買春の抑制につながる。写真の女性は実際の被害者とは異なる(かものはしプロジェクト提供)

被害を受けた女性たちが、加害者を訴え処罰していくことが、児童買春の抑制につながる。写真の女性は実際の被害者とは異なる(かものはしプロジェクト提供)