人身売買と闘うインドのNGO「Sparsh」、施設の子どもたちは「創設者のように貧しい人を助けたい!」

インド・プネーに拠点を置くNGO「Sparsh」の創設者であるジョイスさんとティモさん(左から)。夫婦二人三脚で運営する。保護施設では子どもたちの笑い声が常に絶えないインド・プネーに拠点を置くNGO「Sparsh」の創設者であるジョイスさんとティモさん(左から)。夫婦二人三脚で運営する。保護施設では子どもたちの笑い声が常に絶えない

“人身売買大国”として世界で悪名高いインドで、この問題に取り組む有名なNGOがある。同国西部の街プネーに拠点を置くSparsh(スパーシュ)だ。創設者のジョイスさん(40)は幼いころから、貧しい子どもやシングルマザーを助けたいという夢があった。夢をかなえたいま、ジョイスさんにとって嬉しいのは、人身売買から保護した子どもたちが「(ジョイスさんのように)貧しい人を助けたい」と話すことだ。

■筋金入りのソーシャルワーカー

ジョイスさんはインド南部の街バンガロールで生まれ育った。彼女の両親は貧しい子どもやシングルマザーを助ける活動をしていたという。

「大きくなったら、お父さん、お母さんと同じ仕事をしたい」。大学生になったジョイスさんは、人身売買から子どもを守るムンバイのNGO「ティーン・チャレンジ」でインターンをした。そのころ、薬物に依存したスラムの子どもたちを救う活動をしていたティモさんと出会う。意気投合した2人は後に結婚。2009年に、人身売買・貧困・薬物中毒から子どもや女性を守るNGO「Sparsh」を立ち上げた。

Sparshは人身売買の被害にあった子どもや女性を救って、保護施設で受け入れる。そのうえで心のケアをしたり、地域の学校に通わせたりすることで、社会復帰をサポートする。

ジョイスさんによると、被害者のほとんどは希望や自尊心を失い、反抗したり自分の殻に閉じこもったりするという。「私が意識するのは、被害者の好きなようにさせること。被害者が自分の意思をもっているとき、私は否定せずに受け入れる。そうすることで他者に認められることを少しずつ覚えていく」

■女性の値段は8万5000円?

幼いころに描いた「貧しい人を助けたい」という夢をかなえたジョイスさん。特筆すべきは、Sparsh創設者の思いが次の世代へとしっかり受け継がれていることだ。

Sparshの施設で暮らす8歳のサッティヤくんは幼児のころ、娼婦の母親からSparshへ預けられた。いまや年下の子の面倒も見るしっかり者の男の子だ。サッティヤくんは将来の夢について「貧しい人をみんな助けたい」と話す。

Sparshに9年勤める女性スタッフのラクシミさんは、ジョイスさんとティモさんが保護した初めての子どもだった。ラクシミさんはSparshで育ち、今ではジョイスさんと一緒に約30人の子どもたちを世話する。

インドで人身売買される女性と子どもの数は年間1万2000~5万人といわれる。プネーではわかっているだけでも年間7000~8000人。被害者の多くは、田舎で暮らす若い女性や子どもだ。収入が良い仕事があると騙されたり、飲み物や食べ物に薬を入れられ、知らない間に売り飛ばされたりするケースが後を絶たない。女性の取引価格は最低5万ルピー(約8万5000円)。家族や親せき、友人などに売られる場合もある。