日本で車いす生活のイラン人男性、母国の障害者を草の根支援

0927木村さん、【写真②ミントの会】全盲の人(写真左の白い杖の女性)と一緒に街を検証する 写真右はパシャイさん(ミントの会提供)全盲の人(写真左の白い杖の女性)と一緒に街を検証する 写真右はパシャイさん(ミントの会提供)

NPO法人「イランの障害者を支援するミントの会」(神奈川県秦野市)はイランの障害者の生活を支援している。代表のパシャイ・モハメッドさん(47)は日本での労働災害が原因で車いす生活をおくる。同じ立場から母国の障害者の生活向上へ向けて活動を続ける。

■床ずれ予防研修も!

2016年7月、テヘラン脊損協会。「むくみをとるのが大事ですよ」。ミントの会のメンバー、大澤照枝さん(訪問看護師)と秋山佳世子さん(作業療法士)が、障害者や家族を前に、車いすに乗って上半身の血行を良くするオリジナルの「ミント体操」を披露した。

パシャイさん以外にもリハビリや看護職の人たちもイランに行って、床ずれの仕組みや予防法を学ぶ研修を開く。16年は障害のある患者の自宅を7件訪問して家族に直接、介護方法を提案した。

床ずれは医学的に褥瘡(じょくそう)と呼ぶ。寝たきりなどで血行が悪くなって組織が壊死し、細菌感染すると死亡するケースもある。

予防は可能だが、パシャイさんは「イランはベッド数が少ない。適切な生活方法を教えられないまま退院してしまう。障害者は情報が不足している」と指摘する。イランの人口1000人あたりの病床数は世界平均を下回り、日本の10分の1程度とも言われる。

■労災で下半身不随に

元々、パシャイさんは故郷キャラジ(テヘランの西約20キロメートル)から来日して、建築土木の作業員として働いていた。

ところが、2004年2月、仕事中の事故で1カ月半意識を失い、下半身不随となった。「もう生きたくないと思った」とショックは大きかったが、リハビリセンターで自分より障害の重い人たちが励む姿を見るうちに、気持ちを切りかえられた。

そんな時、母国の障害者の生活が気にかかった。ハマダーン(テヘランの西約400キロメートル)に住むマジドさん(40)を紹介され、電話などでお互いを励ましあうようになった。マジドさんは頸髄損傷で寝たきり。生きる気力をなくし「骨と皮だけだった」(パシャイさん)。マジドさんへ07年に電動ベッド、その後に電動車いすを送った。

おかげでマジドさんは頻繁に外出できるようになり、家族も明るくなったという。パシャイさんは「閉じこもる障害者が多いのに気づいた」と活動の原点を振り返る。

これまでに神奈川県内などの福祉・医療関係者の協力も得て、車いす323台(電動49台含む)、電動ベッド32台などをイランに送った。特に子供用は重宝された。

障害者用ガイドブックやリハビリDVDも日本語からペルシア語に翻訳して送った。

■イラン全土でバリアフリーを

最近は、キャラジやテヘランの行政との連携も深める。キャラジでは建設中のバゲスタン自然公園でバリアフリーについて助言した。

16年は要望を受けて南部のシーラーズで初めて道路整備の技術者向けの研修を開いた。研修では、必ず現地の車いすや全盲の人も一緒に街や公園を歩く。行政側も意見を聞くだけでなく、実際に車いすに乗って移動の困難さを体験する。

ただ、道路構造の違いなどで日本のバリアフリー基準をそのまま適応できない課題もある。イランは幅1メートル近い排水用の溝が、車道と歩道の間にある。スロープなどを設置しても傾斜はきつい。

会のメンバーのひとりでユニバーサルデザインやバリアフリーのまちづくりに詳しい寺島薫さんは「現地の行政や障害者と共にイランに合わせた改善策を議論して、実際の整備に活かす必要がある」と話す。

パシャイさんは今後について、「時間はかかるが、障害者が住みやすい国づくりに貢献したい。近いうちにイラン全土のバリアフリー担当者を集めて研修を開きたい」と熱意を持つ。

障害者目線の草の根の支援。国際協力におけるまちづくり支援の見本になりそうだ。

研修では行政の担当者も車いす移動を体験する(ミントの会提供)

研修では行政の担当者も車いす移動を体験する(ミントの会提供)

車道と歩道の間には幅1メートル近い排水用の溝が多い(ミントの会提供)

車道と歩道の間には幅1メートル近い排水用の溝が多い(ミントの会提供)