アンコールワットだけじゃない! カンボジアでいま熱いのはコワーキングスペース

0319平尾さん、写真7アンコールHUBの中(シェムリアップ)

カンボジア・シェムリアップで訪れるべき場所は世界遺産のアンコールワットだけではない。シュリムアップで4年前に初めて誕生したコワーキングスペース「アンコールHUB」は、カンボジアの現在の経済成長と未来の可能性を体感することができる場所だ。カナダ人のオーナーであるジェフ・ラフラムさん(39)は「アンコールHUBにはいろんな才能のある人が集まり、新たなビジネスを生み出している」と話す。

アンコールHUBはシュリムアップの中心部にある。アンコールワットの遺跡群からもバイクで20分程度と近く、旅行やビジネスの拠点としても好立地だ。

建物の中に入ると、オープンエアーなフリースぺース、芝生がきれいなガーデンスペースがある。フリースペースにはホワイトボードや旅行者に嬉しいマルチ電源タップも。ドリンクコーナーも充実している。インターネットは光ファイバー回線を敷設していて、スカイプ用の会議室も用意。プリンターやプロジェクター、モバイルSIMなども借りられる。リクリエーション用にビリヤード台まである。ガーデンスペースにはデッキチェアとテーブル、ちょっとした打ち合わせができる小屋も整備されている。ハンモックも木に吊るされている。

利用料は1日5ドル(約560円)。1週間(7日)では25ドル(約2800円)だ。月会員になると1カ月89ドル(約1万円)。少し高めだが、日本でもまだ少ない24時間利用が可能だ。

利用者は、シェムリアップ在住のオランダ人やスイス人、日本人など1日20~30人。その多くがIT関連のエンジニア、ノマドワーカーだ。さまざまな国籍の人が集まってネットワーキングをする。シェムリアップ在住の日本人が日本語教室を無料で開いたり、毎週金曜日には「Pop-up Bar」という誰でも参加できるパーティもやっている。「ぜひ気軽に遊びに来てください」とラフラムさんは言う。

ここでの出会いが新たなビジネスを生み出す。スタートアップ起業も実際にいくつか生まれた。「コワーキングスペースで生まれる偶然の出会いが作り出すビジネスの可能性(これを「マジック」と彼は呼ぶ)を私はこの場所から生み出していきたい」とラフラムさんは将来を描く。

アンコールHUBの特徴は、コワーキングスペースだけではなく、宿泊施設やカフェ機能も備えていること。アシスタントマネージャーのサンディさん(カンボジアン人)は「コワーキングスペースの利用料だけでは採算が取れない。カフェやランチのサービスをスタートし、今は宿泊客も受け入れるようになった」と話す。

カフェでは、コーヒーや紅茶は0.5ドル(約60円)、エスプレッソは1.25ドル(約140円)、缶ビールは1ドル(約110円)で売る。ランチが必要な人はホワイトボードに名前を書けば、アンコールHUBが準備してくれる。コワーキングスペースらしいスタイルだ。

宿泊サービスは1週間105ドル(約1万2000円)から。宿泊費に加えて、朝食と昼食、モバイルSIMのレンタル、貸自転車、クリーニングサービス、空港への送迎が付いてくる。もちろんコワーキングスペースの利用は24時間無料だ。

アンコールHUBをラフラムさんが立ち上げたのは2014年4月。その2カ月後に「THE 1961」という別のコワーキングスペースがオープンした。シェムリアップには現在、コワーキングスペースが6カ所あるという。その多くはシェムリアップ在住の外国人がオーナーだ。それぞれのコワーキングスペースは、目指している方向性が違っていて、どれも個性的。The 1961は、ビジネスだけでなくアートにも力を入れる。ホテルを改造したきれいなスペースでは時々、世界を渡り歩くアーティストを招いたイベントを開催する。

アンコール遺跡群がカンボジアの輝かしい歴史を語る場所とすれば、アンコールHUBをはじめとするコワーキングスペース群はカンボジアの未来を感じられる場所といえそうだ。

アンコールHUBの入り口にある看板(カンボジア・シェムリアップ)

アンコールHUBの入り口にある看板(カンボジア・シェムリアップ)

アンコールHUBの創業者であるカナダ人のジェフ・ラフラムさん。オープンしたきっかけについて「1960年代のカンボジアのアートに魅せられたことが、カンボジアに惹かれた理由。でも今では見ることができない。(ポル・ポト派による1975~79年の大虐殺で)多くの芸術家が殺されてしまったからだ」と話す

アンコールHUBの創業者であるカナダ人のジェフ・ラフラムさん。「行動こそが達成の秘訣だ」と語る実行力に優れた起業家だ