カンボジアをアドラー心理学から考察してみた② 「〇〇をする」という気持ちが貧困脱却を可能にする

0927宮崎さん、アドラー②グローブジャングルがシェムリアップ郊外で運営する工房で作業中の女性たち

「カンボジアをアドラー心理学から考察してみた」連載の第二弾(第一弾)。今回は、農民の一家に生まれた女性と高床式の家で育った僧侶というシェムリアップ郊外の出身者2人のサクセスストーリーを取り上げる。アドラー心理学が掲げる「目的論」の観点からみると、成功のポイントは、劣等感を理由に逃げず、変化を恐れず、「〇〇をする」といった目標に向かって着実に行動していることだ。

■農家から「かご作り」へ、変化を恐れない勇気

「私は勉強ができないから、試験に合格できない」。こう考える人は世の中に少なくない。原因が起こるから結果が起こる。この考え方を「原因論」と呼ぶ。一般的な心理学の理論だ。

ところがアドラー心理学の考え方は根本から異なる。「試験に合格する」という目標に向かって行動しても失敗するのが嫌だから、「勉強ができない」ことを言い訳にする。これを「目的論」という。わかりやすくいえば、失敗したくないという「目的」のために、行動や感情はつくり出されると考えるのが、アドラーの目的論だ。

この目的論を意識して活動するのが、大阪・箕面に本部を置き、カンボジアの女性の自立を促すNPO法人(だ。この団体は、シェムリアップの中心地から車でおよそ30分のところにあるスヴァイチュルム村に、トレンサップ湖でとれるウォーターヒヤシンスを材料にかごを作る工房をもつ。そこで働くのは農家出身の11人の女性たちだ。

この工房の唯一の日本人スタッフである石田希穂さんによると、11人の女性のほとんどは、夫が隣国のタイに出稼ぎに行っている。農作業の担い手が減ったため、収入は不安定に。この結果、子どもにも農業を手伝ってもらう必要がでて、子どもが学校に行けなくなるという事態が起きていた。

工房で働く女性たちは、貧困から抜け出すために、農作業と並行してかごを作り始めた。3歳の子どもをもつ25歳の女性は「初めのころは慣れなくて苦戦したけれど、今は農作業や子どもの世話と両立できるようになって楽しくなってきたし、なにより生活が楽」と嬉しそうに語る。1カ月に100ドル(約120円)の安定収入を得られるようになったことで、生活にゆとりが生まれた。

彼女たちの状況をアドラー心理学の視点から考察すると、「収入をアップする」という目標を決め、それを達成するために不慣れなかご作りに勇気をもって挑戦したといえる。原因論の考え方をもっていたら、「夫が出稼ぎに行っているから、私は貧しいまま」とマイナス思考に陥り、何も変わらなかったかもしれない。

■「大学へ進学する」ために出家! 農村出身の僧侶

シェムリアップにあるポランカ寺のソークン僧侶(28歳)の実家は、カンボジアの農村にある典型的な質素な高床式の家だ。家が貧しく、学校に通うためのお金がなかったため出家した。ポランカ寺で仏教を勉強した後、ポランカ寺出身の僧侶らが作った子どもの教育を支援するNGO「アンコール・ブディスト・オーガニゼーション」から奨学金をもらい、現在はシェムリアップの大学で国際法を勉強している。今後は米国の大学に留学し、国際開発学を学ぶ計画だ。ちなみにソークン僧侶は流ちょうな英語を話す。

アドラー心理学の視点で考察すると、ソークン僧侶は「大学に進学する」という明確な目的を決めて、これを達成するために出家し、寺で学び、大学に進学した。彼にとっての劣等感は「貧困で学費が出せないこと」だが、目的をかなえるにはどうすればいいかを考えた。彼は誇らしげに、「結果良ければすべて良しってことだよ」と語る。

「人生が困難なのではない、あなたが人生を困難にしているのだ」(アドラー)

カンボジアには貧しい人は少なくはない。しかし貧困から脱却できる人とできない人の差は何か。複雑な要素が絡んでいるのは言うまでもないが、大きな要素のひとつがひょっとするとアドラー的な思考かもしれない。アドラーは言う。「人は過去に縛られているわけではない。あなたの描く未来があなたを規定しているのだ」