「ベトナム産のほうが安い!」、農業国カンボジアが輸入野菜に頼るワケ

ルー市場では多くの輸入野菜が売られている(カンボジア・シュムリアップ)ルー市場では多くの輸入野菜が売られている(カンボジア・シュムリアップ)

「ベトナム産の野菜のほうが安い。また見た目も良いから買い物客はそれを好む」。カンボジア・シェムリアップにある最大のローカル市場「プサー・ルー(ルー市場)」で八百屋を営むヤンさん(28歳、女性)はそう語る。カンボジアの市場で売られる野菜のうち、ベトナム産はキャベツ、トマト、白菜など。農業大国であるはずのカンボジアが野菜を輸入に頼るのには「農業をする若者が足りないこと」「雨季の栽培が難しいこと」「農家の資金不足」の3つのワケがある。

1つめのワケは、タイなどの近隣国へ出稼ぎに行く若者が多いため、農村で働く若者が足りないことだ。この結果、カンボジアの農業の生産効率が悪くなり、市場に出回る量が少なくなる。海外で働くカンボジア人はおよそ200万人。同国の労働職業訓練省によると、毎月最大1万人が雇用を求めて海外に行き、主に農業や建設業、工場などで働くという。

シェムリアップ郊外のステン村で馬鈴薯やケールを栽培するロウさん(64歳、女性)は「子どもも娘もタイに出稼ぎに行ってしまった。村に残るのは年老いた私と小さな孫だけ。大きな畑を管理できる体力はない。老人や子どもでは野菜を市場まで運べない。小さな畑で家庭用に栽培するだけだ」と語る。

ちなみにカンボジア農林水産省の2013年の調査によると、労働人口に対する農業従事者の割合は48.7%と半数近い。だが日本の農林水産省の2014年のデータによれば、カンボジアの農地面積の80%を稲作が占め、野菜の農地面積は10%にも満たないという。

2つめのワケは、時期によってカンボジア産野菜の価格が高くなってしまうことだ。カンボジアには雨季と乾季があるが、野菜を通年で栽培する技術がまだ普及していない。このため安定的に野菜を市場に卸すことが困難。とりわけ生産量が減る雨季は、国産野菜の価格が高騰し、輸入量も増える。

3つめのワケは、農家のほとんどが農薬を買うお金をもっていないことだ。ステン村でキュウリやウリを栽培するポックさん(72歳、女性)は昔ながらの高床式住居で4人暮らしをする。「市場で野菜を売っても1日6000リエル(約160円)ほどにしかならない。お金がないから、農薬は使ったこともないし、買う予定もない」と語る。農薬を使えないため、育てた野菜が虫に食われることもしばしばだ。

対照的にベトナムの野菜の生産量はカンボジアと比べられないほど多い。日系企業の進出も盛んで、太陽光を利用した植物工場や水耕栽培農園の設置、トラクターや化学肥料の導入を日系企業が中心に進めている。また南北に長く伸びるベトナムの国土を生かし、地域ごとの気象条件の違いを武器に生産量の増減を互いにカバー。通年で野菜を供給できるようにしている。

カンボジア、ベトナム両国を結ぶ流通網の改善も輸入野菜の増加を後押しする。カンボジアの首都プノンペンとベトナムを結ぶ国道6号線の修復工事は2017年4月6日に完了した。ルー市場のヤンさんも「幹線道路がきれいになってから、ベトナム産の野菜をまとまった量で安く仕入れることができるようになった」と話す。流通コストの低下が、ベトナム野菜の値下がりにつながったのだ。