フィリピン人は販促下手!? ネグロス島の青年海外協力隊員がマーケティング改革進める

フィリピン・ネグロス島で活動する青年海外協力隊員の根本香緒莉さん(右)。配属先は貿易産業省ドゥマゲティ事務所、職種はデザイン

フィリピン・ネグロス島南部のドゥマゲティ市内の貿易産業省(DTI)の事務所に、ひとりの青年海外協力隊員のデザイナーがいる。根本香緒莉さん(31)だ。日本と違って、ドゥマゲティには土産物のパッケージやPOPなどを工夫する文化が根付いていない。マーケティングの力で商品の売り上げを伸ばせることに気づいた根本さんは「フィリピン人自らのアイデアで近い将来、自分たちの商品を販促してもらいたい」と意欲をのぞかせる。

「(ドゥマゲティ近郊では)店頭に並ぶ製品のほとんどにPOPは貼られていない。あったとしても商品の魅力がいまひとつ伝わってこない。POPは(商品の)コンセプトを文字や絵で明確に表現したもの。これが商品の長所を効果的にアピールし、説得力を生み出す。『リーズナブル』や『妊婦さんにおすすめ!』など、一言あるだけで販促は可能だ」。ドゥマゲティで活動する根本さんは体験談からこう話す。

根本さんが販促を手伝ったアクセサリーブランドのひとつに「PLARN」がある。マレーシアで捕まったフィリピン人が、現地の刑務所でごみとなったビニール袋からアクセサリーを作る技術を学んだという。このフィリピン人はその後、ドゥマゲティの刑務所にも収監されたが、その間にほかの囚人たちに技術を教えてきた。しかし1~2年前までは囚人が作っているという背景をラベルに載せず、また包装しないで売っていた。

そこで根本さんは、商品をプラスチックの袋に入れタグをつけた。全ての商品のタグの配色は白と黄で統一した。これに加えて、「ごみとなったビニール袋から囚人が作ったアクセサリー」とわかるように英語で明記した。

PLARNは外国人の観光客をターゲットにした商品。競合他社が少ないため、粗利率が60%以上になる強気の価格を設定する。たとえば魚の形をしたピアスの場合、売値は150ペソ(約330円)だが、原価は50ペソ(約110円)。「フィリピン人の生産者の生計向上が目的なので、利益の出ない商品は売らない」と根本さんは言い切る。

今はブレスレットやピアスなどの新商品も増やして、ドゥマゲティのあるネグロスオリエンタル州で開かれるイベントや、ドゥマゲティ市の中心部から車で約40分のところにあるバレンシアや、隣の島のセブにある土産屋で販売している。

根本さんが販促を手がけるのは土産物だけではない。バナナチップス、クッキー、フルーツバーなどの菓子を作る地元の零細企業「JK LALICIOUS」もそのひとつだ。JK LALICIOUSの商品のラベルは以前、フォントやロゴなどがばらばらで、デザインに統一感がなかった。根本さんは全ての商品のラベルを黄色を基調とするデザインに変更。「健康的!」「ココナツ入り!」などのコメントをラベルに書き、プレミアム感を出した。「ラベルを変えたら2カ月で売り上げが15%アップした」と根本さんは販促効果を語る。

根本さんは今後、やる気があって、成功する見込みのある店を中心に活動していく方針だ。販促が実際に売り上げ向上につながる例を示し、販促の重要さを広めていきたいからだ。次の段階の活動として、それぞれの土産物屋が抱える課題を見える化したり、目標を自らで設定できるようにしたりするビジネスセミナーや、商品の付加価値の付け方を指導するワークショップなどを開く予定。地元の零細企業が自発的に販促を実践できるようにすることを目標としている。

根本さんは青年海外協力隊に参加する前、東京の生活雑貨メーカーに4年間勤務。デザインだけでなく、商品の企画、作り手への発注、営業、売り場のフォローなどの業務を一人で担っていた。「前職で得た経験・スキルが役立っている」と根本さんは話す。(白戸カンナ、真鍋耀)

根本さんが商品ラベルをデザインした、JK LALICIOUS社の菓子。統一感を出した。以前はバラバラのラベルだったという

根本さんが商品ラベルをデザインした、JK LALICIOUS社の菓子。統一感を出した。以前はバラバラのラベルだったという