消えた息子のケロさんを探し続けたカルメンさん。81歳の懸命な姿はメディアに取り上げられ、独裁政権に子どもを奪われた家族の象徴として国民の心に刻まれた ベネズエラの独裁政権に政治犯として捕まり、刑務所に拘禁されていた息子を1年4カ月にわたって探し続けた母カルメン・テレサ・ナバスさん(81)が5月17日、同国の首都カラカスで息を引き取った。スペイン語各紙が報じ、ベネズエラ全土で怒りの声が広がっている。
露天商に国家反逆罪
アルゼンチンのニュースサイト「インフォバエ」などによると、カルメンさんの息子ケロ・ナバスさん(51)は2025年1月3日、ベネズエラ国軍傘下の諜報機関で、反体制派の弾圧に関与する「軍事防諜総局(DGCIM)」の捜査官に拘束された。その後、カラカスから約30キロメートル離れたミランダ州グアティレにあるエル・ロデオ第1刑務所に送り込まれていた。
露天商を生業とするケロさんにかけられた容疑はテロ・陰謀・国家反逆といった重罪。だがこうした容疑がなぜかけられたのかは最後まで明らかにされなかった。
息子が行方不明となって以来、カルメンさんは1年4カ月にわたって、ベネズエラ各地の刑務所を駆けずり回り、必死に息子を探した。ところがまったく相手にされず、返ってきたのは無視と嘲笑。人権NGOの「フォロ・ペナル」(刑事フォーラム)が法廷での手続きを支援したものの、ベネズエラ当局は居場所すら答えなかった。
「神さま、私に力をください」
だがケロさんは2025年7月24日に死亡していた。この事実をベネズエラ政府が明らかにしたのは5月7日だ。死から約10カ月が経っていた。死因は「肺塞栓症に伴う急性呼吸不全」という。
死の事実を知ったカルメンさんは息子の墓を訪れ、遺体の身元を確認するため掘り起こしを求めた。カラカスで先日行われた小さな葬儀の場で彼女は涙ながらに「神さま、私に力を与えてください」と言葉を絞り出したという。これがカルメンさんが公の場で見せた最後の姿となった。
カルメンさんの家族や友人らは、息子の行方を追うためカルメンさんは自身の体の不調を犠牲にしていた、と語る。
母の悲しみをもてあそぶ政権
カルメンさんの訃報はすぐにベネズエラ全土を駆け巡った。ノーベル平和賞受賞者で、野党リーダーのマリア・コリーナ・マチャド氏は「母親が亡くなっただけではなく、痛みを勇気に、絶望を抗議へと変えた女性が沈黙させられた」と哀しみを表現した。
また、マチャド氏が党首を務める政党ベンテ・ベネズエラは「政権はケロさんを殺しただけでなく、すでに死んでいることを知りながら何カ月も探し続けるよう強いた」と糾弾した。
マチャド氏の盟友で、自身も拘禁されていた元国会議員のフアン・パブロ・グアニパ氏は「(どこかの刑務所にいないかと)息子を探し求めていた母親の悲しみを、彼らは1年もの間もてあそんできた」と述べた。
人権NGOの「フスティシア・エンクエントロ・イ・ぺルドン」(正義・和解・許し)によれは、政治的な理由で拘束され、国家の拘禁下で命を落とした人の数は27人にのぼる。ベネズエラでは政治犯としてとらえられると、どこにいるのか、生きているのかさえわからない行方不明者となるのが現実だ。













