「食料への権利」をブルキナファソの新憲法に明記しよう! NGOハンガー・フリー・ワールドの青少年組織が交差点でビラ配り 

青少年組織「ユース・エンディング・ハンガー」のメンバーがブルキナファソの首都ワガドゥグでビラを配る様子。メンバーは「食料の権利を憲法に」と書かれたお揃いのTシャツを着た(ハンガー・フリー・ワールド提供)青少年組織「ユース・エンディング・ハンガー」のメンバーがブルキナファソの首都ワガドゥグでビラを配る様子。メンバーは「食料への権利を憲法に」と書かれたお揃いのTシャツを着た(ハンガー・フリー・ワールド提供)

世界の飢餓の根絶を目指して活動するNGOハンガー・フリー・ワールド(HFW、東京・千代田)が、西アフリカのブルキナファソで2018年にも改正が予定される憲法に「食料への権利」を入れるよう動いている。その活動のひとつが、同団体の青少年組織「ユース・エンディング・ハンガー」(YEH)による首都ワガドゥグの路上でのビラ配りだ。HFWの海外事業マネージャー・アドボカシー担当の米良彰子氏は「食料への権利が憲法に入れば、食料を適切に国民に分配する責任がブルキナファソ政府に生まれる」と飢餓に終止符を打つ大きな一歩になると意義を強調する。

■食料への権利を知らない

食料への権利とは、すべての人が生きていくために必要な食べ物を自ら手に入れられることを保障するもの。ブルキナファソでは2018年前半に、憲法改正の是非を問う国民投票が実施される見通しで、改正案の中には食料への権利も入っている。

「(ブルキナファソの)新憲法に『食料への権利』を!」。こうシンプルに書かれたビラを世界食糧デーの10月16日、大学生を中心とするYEHのメンバー25人はワガドゥグ市内で配った。その数1500枚以上。新憲法の草案に食料への権利が含まれていることを市民に知ってもらい、憲法改正の国民投票では「食料への権利を新憲法に入れる」ことに賛成票を投じてほしいと呼びかけたのだ。

ビラを配布したのは、庶民が多く通る「ペドゥオ」という交差点と、国際機関や省庁が集まる「ユナイテッド・ネーションズ・サークル」という交差点の2カ所。用意したビラは朝7時~8時半の1時間半であっという間になくなった。ワガドゥグは渋滞がひどいこともあって、バイクに乗っている人たちが信号待ちの間、ビラを手に取り、食料の権利について補足説明するYEHメンバーの話を聞いてくれたという。

米良氏によると、YEHのメンバー からは「憲法の草案に食料への権利が含まれていることを知らない人が意外に多かった。だからこそ、今後も活動を続けていく必要がある」「多くの人が好意的にビラを受け取ってくれて嬉しかった。もっと多くの人に長時間ビラを配りたい」といった前向きな声があがった。今後も、ブルキナファソの大学生主体のこうした活動をサポートしていきたい、と米良氏は語る。

食料への権利を広める活動にYEHが熱心なのは、ブルキナファソの大学生にとって飢餓が身近だからだ。都市部の大学生の中でも、栄養価の高い食事に1日3度ありつける人は少ない。自らが深刻な食料不足を経験した地方出身の大学生も多い。

ブルキナファソの地方では「食べられるときに、食べられるものをできるだけ与えておく」という考えが根強い。そのため炭水化物だけを多くとり異常な太り方をしている子どもも少なくないという。YEHのメンバーのひとりは「自分たちだけではなく、自分たちの子どもの世代のために、食料への権利をうたう憲法改正案を実現したい」と話す。

■食べることは「人権」だ!

米良氏によれば、食料への権利を憲法に明記した国は世界に24カ国ある(日本は含まれていない)。1人当たりの国民総所得(GNI)がわずか640ドル(約7万3000円)のブルキナファソで食料への権利を憲法に入れるメリットについて米良氏はこう説明する。

「食料への権利が憲法に明記されれば、食料を運搬するためのインフラや食料備蓄庫の整備など、適切に食料を供給するために行動する義務がブルキナファソ政府に生まれる。政府がもし適切な処置をとらなかったら、HFWのようなNGOが政府に責任を追及できるようになる」

食料は人間が生きていくために欠かせないもの。食料への権利は、教育を受ける権利と同じように、すべての人が生まれながらにもつ人権のひとつだ。「(食料が)あること(availability)、質が適切であること(adequacy)、誰でもアクセスができること(accessibility)、ずっとあり続けること(Sustainability)、どれかひとつでも欠けていたら食料への権利の侵害にあたる」(米良氏)

ブルキナファソの憲法草案に食料への権利が含まれているのは、憲法改正委員会の委員であり、食料への権利を研究するワガドゥグ大学のアブドゥライ・ソマ教授の働きかけによるものだ。ソマ教授は以前、YEHのメンバーを対象に食の権利について講演したこともある。

実は、今回の憲法改正の最大の目玉は食料への権利を入れるかどうかではない。ブルキナファソの大統領を2014年まで27年にわたって務めたコンパオレ氏のような独裁政権の台頭を防ぐ規定を盛り込むことが目的だ。ただ食料への権利など、それ以外の規定も改正案には盛り込まれている。

国連が2017年9月に発表したところによると、世界の飢餓人口は8億1500万人。これは2015年の7億9500万人から増えた。「飢餓人口はこれまでは一貫して減ってきたが、紛争が各地で起きたことで増えてしまった。紛争のせいで飢餓の状態に置かれた人の割合は、飢餓人口全体の半数以上にのぼる」(米良氏)という。

ビラを配り終えた後もプラカードを持って、街の人々に食料への権利を広めた(ハンガー・フリー・ワールド提供) ビラを配り終えた後もプラカードを持って、街の人々に食料への権利を広めた(ハンガー・フリー・ワールド提供)

ビラを配り終えた後もプラカードを持って、街の人々に食料への権利を広めた(ハンガー・フリー・ワールド提供)